トルコ音楽演奏家・大平さんに聞く!トルコ音楽とお酒の魅力
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お酒の楽しみ方はいろいろありますが、芸術の秋には、世界の音楽とその国のお酒を楽しんでみませんか?今回は、トルコ音楽演奏家の大平清さんに、トルコ音楽の魅力とトルコのお酒「ラク」についてお話を聞きました。
プロフィール
大平 清(おおひら きよし)
島根県浜田市生まれ。トルコ音楽演奏家。トルコの伝統的な弦楽器「バーラマ」の演奏法をイスタンブールとブルサで学ぶ。アンカラでオスマン古典音楽を、ギリシアやアゼルバイジャン、中国でも現地の伝統楽器を学ぶ。奈良時代の散楽(さんがく)の現代版を目指すユニット『現代散楽』のメンバーとしても活動。演奏活動のほか演劇や朗読劇の作曲も行っている。ユヌスエムレ・トルコ文化センター東京音楽講師。
INDEX
トルコ音楽演奏家の大平さんが語るトルコ音楽のすすめ
―初めに大平さんとトルコ音楽との出会いについて教えてください。
14歳からアコースティックギターを弾き始め、自分でも曲を作ったりしていたのですが、当時の日本の音楽シーンにしっくりこない感覚がありました。一方で、テレビ番組のトルコ特集などで聴いたトルコのバーラマ演奏に興味を持っていたんです。あるとき友人がトルコ音楽のLPレコードを買ってきて聴かせてくれました。弦楽器「バーラマ」の演奏が入っていたのですが、時空を超越するような悠久の響きに衝撃を受けました。その土地の人々が本当に表現したいものが表現されている音楽だと感じたんです。
トルコに渡って伝統楽器「バーラマ」を学ぶようになったのは、社会人になってからです。お金を貯めてはトルコに行くようになりました。最初はつてもなく、横浜のトルコレストランのオーナーに紹介してもらった方を訪ねて行ったんです。その後現地で人脈が広がり、有名な先生方に師事することがかないました。同じ曲でも先生によって指の使い方や表現の仕方が違ったりしましたが、ある意味どれも本物で、楽しく興味深く勉強させていただきました。
―劇的な出会いだったのですね。トルコ音楽とはどのような音楽なのでしょうか?
トルコ音楽にはさまざまなジャンルがあります。トルコの人々は、遠い昔はモンゴル高原やアルタイ山脈周辺に住んでいた騎馬民族です。その後西方へ移動し中央アジアを経てアナトリア半島、バルカン半島に至ります。その音楽は民族の移動の歴史を反映し、多様性に富んでいます。
私がトルコで勉強した「ハルクミュージック」は日本語に訳すと国民音楽、まさにトルコ民族本来の伝統の響きを踏襲してきた音楽です。「ハルク」には、伝統的な弦楽器「バーラマ」の音色が欠かせません。他にも、オスマントルコ時代の宮廷で演奏されたサナトミュージック(芸術音楽)や宗教音楽、モーツァルトやベートーベンも影響を受けたと言われる世界的に有名な「メフテル」と呼ばれる軍楽などがあります。
―一言でトルコ音楽と言ってもさまざまなのですね。大平さんが考えるトルコ音楽の魅力とはどのようなものですか?
エキゾチックでオリエンタルな香りがするメロディーや楽器の響き、また日本人が聴いても懐かしさを感じるような曲もあり、魅かれる部分は多いです。トルコでは、ポップス界でも伝統的な曲をアレンジしたものが多くみられます。若い世代でも伝統楽器の演奏動画を積極的に配信していますし、テレビでも伝統音楽を扱う番組が多い印象です。伝統的な曲が幅広い世代に支持され、まさに国民の音楽として根付いているのは素晴らしいことですね。
―今日お持ちいただいた「バーラマ」という楽器についても教えてください。
「バーラマ」は一般的には「サズ」と呼ばれていますが、「サズ」はペルシャ語で音楽や楽器という意味で、最近では本来のトルコ語の呼称である「バーラマ」と呼ばれることが多くなってきました。元々はアーシュクと呼ばれる吟遊詩人の人々が使っていた楽器です。洋梨型で長い棹(ネック)を持ち、主に桑の木で作られてきました。ネックの長さはさまざまなタイプがあり、サイズによって呼び名もあります。全長110cm前後の物が多いですが、本日持参したものは約130cmあります。
いろいろな音の表現ができる楽器で、ダンスなどのアップテンポの曲にも、ゆったりした情緒的な曲にも合いますね。シャランシャランという独特の音色に、シルクロードの伝統を感じます。
トルコ音楽とともに楽しみたいトルコの蒸留酒「ラク」
―ここからはお酒について教えてください。トルコのお酒事情や印象に残っているエピソードはありますか?
トルコはイスラム教徒が大半を占め、人々の生活にもその文化が深く根付いています。お酒を飲まないムスリムの方も多いのですが、トルコは政教分離の国なので、実はビールやワインなどの飲酒文化も豊かです。バーラマ奏者はお酒好きな人が多く、トルコの伝統的なお酒「ラク」を好んで飲みます。ラクを飲み、しらふの時とは一味違う卓越した演奏をする奏者が尊敬を集めたりするんです。
私のバーラマの師匠もよく音楽仲間と宴会を開き、私も同席させていただきました。演奏家がたくさん集まって、ラクを囲み、みんなでバーラマを演奏したり歌ったり、一気に距離が縮まってとても楽しい時間でした。
―バーラマ奏者とラクは切り離せないんですね。そのラクとはどのようなお酒なのですか?
葡萄のエキスと芹科の植物アニス(ういきょう)の実からつくる蒸留酒です。蒸留した液を樫の木の樽に入れて1カ月から3カ月寝かせてゆっくりと熟成させます。独特の香りを持つ無色透明のお酒で、水を入れると白濁するので「ライオンのミルク」とも呼ばれています。
トルコでは親しい仲間とラクを囲み、よく飲み、よく語り合い、踊るんです。アルコール度数は45度と高く、いろいろなメゼ(前菜)とともに楽しまれています。私が参加していた宴会では、ラフマジュンやピデといったトルコ風のピザのような料理や、羊の内臓のヨーグルト漬けなどを合わせていました。また白チーズやメロン、スイカなどの果物と一緒に楽しむ光景も見られました。
―飲んだことがないのですが、どのような飲み方がおすすめですか?
ラクは一般的には水割りで飲むことが多いです。細長いグラスを2個用意し、片方にラクと水(好みで氷)を入れ、もう片方には冷たい水(好みで氷)を入れます。水割りにしたものを口に含み、さらにもう一度水を口に含み、口の中で割って飲むのがトルコ式です。
個人的にはストレートやロックがおすすめです。甘く良い香りがしますよ。まずはそのままストレートかロックで試してから、自分の好みで水を足すなど自身の好みを探してみると良いと思います。日本のトルコレストランで注文すると、水割りの状態で出てくるお店もあるので、注文時にストレートやロック+お水をお願いできるか確認してみてください。
―最後に、これから初めてトルコ音楽とラクを楽しんでみたいという方にメッセージをお願いします。
トルコ音楽にはさまざまなジャンルがあります。にぎやかな曲、落ち着いた曲、懐かしく感じる曲。そしてバーラマの演奏シーンもよく登場します。まずはジャンルを問わず試してみて、好きなタイプの曲やミュージシャンを探してみてもらえると嬉しいです。
一緒にトルコ料理とラクを合わせると、トルコの雰囲気にたっぷりと浸れると思います。ぜひトルコ音楽とラクを楽しんでみてください。
大平さん、ありがとうございました!
トルコ音楽とラクに興味を持たれた皆さん、ぜひ試してみてくださいね♪