忙しさを手放す、一服の時間。はじめての茶道体験
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新しい一年を迎える今こそ、心の静けさを取り戻す時間を作ってみませんか。
今回、編集部は「茶禅 浅草」で茶道を体験しました。
茶道は、一つひとつの所作や茶室の静けさを通して、慌ただしい日常からそっと距離を取らせてくれるもの。
敷居が高そう……と思っている方にこそ届けたい、心がすっと整うひとときの魅力をご紹介します。
プロフィール
茶禅代表 竹田理絵さん
世界30か国、7万人以上に、茶道と日本の伝統文化の魅力を伝えるグローバル茶道家。銀座・浅草・京都のお茶室で、初心者向けの茶道体験や教室を開催している。伝統を大切にしながらも、敷居の高いイメージを和らげ、初心者から経験者まで幅広い層に支持されている。茶道を通じて心身の癒しを届け、笑顔が広がる世界を目指している。
INDEX
茶の湯のひとときに、日本文化が息づいている
茶道を体験したことがない方の多くは、「なんとなく敷居が高そう」と感じているのではないでしょうか。
実は編集部も、体験前はそう思っていました。
ところが実際に体験してみると、その印象は良い意味で裏切られます。
・服装は普段着でOK
・正座がつらければ足を崩してOK
・手ぶらで参加OK
・作法は完璧ではなくてOK
・何よりも大切なのは「楽しむこと」
竹田先生の“初心者ウェルカム”な雰囲気に、自然と肩の力が抜けていきました。
茶道は“日本の総合芸術”ともいわれています。
掛け軸、お香、茶道具、和菓子、生け花、着物など。
一つの小さな空間の中に、さまざまな日本文化が凝縮されています。茶道をきっかけに、日本文化への興味が広がり、「抹茶茶碗を作ってみたい」「禅語を学んでみたい」といった新たな関心につながることも多いそうです。
こんな贅沢な体験、少し気になってきませんか?
静けさの中へ。はじめての茶道体験
最初の一歩は、茶葉を挽くところから
体験は、茶臼を使って碾茶(てんちゃ)※を挽くところから始まりました。初めて手にする茶臼の重みを感じながら、ゴロゴロと回していくと、茶葉が少しずつ鮮やかな抹茶色に変わっていきます。お抹茶は茶葉をまるごと摂取できるため、ビタミンやミネラルが豊富に含まれているといわれています。
自分の手で挽いたお抹茶は、これから点てるお茶への期待をより一層高めてくれます。
※抹茶の原料となるお茶の葉。日光を遮って育てることで、渋みが少なく、やさしい旨みが引き出される。
身をかがめて入る、その瞬間から
手を洗い、身支度を整えてから茶室へ向かいます。茶室の入口「にじり口」は、身をかがめなければ入れないほど低く作られています。どんな身分の人も頭を下げて入ることで、“茶室の中では皆が平等”という意味が込められています。
茶室に一歩足を踏み入れると、畳のやわらかさと静かな空気に包まれました。4畳半の茶室は、人との距離がほどよく感じられる空間です。
床の間には、「且坐喫茶(しゃざきっさ)」という禅語の掛け軸が飾られていました。“少し座ってお茶でも一服しなさい”という、忙しい現代人への温かなメッセージです。
また、季節の花もさりげなく生けられていました。これは、訪れる人へのおもてなしの心や、自然の美しさを大切にする茶道の精神を表しています。そして茶室には、ほのかにお香が焚かれていました。掛け軸・花・お香。それぞれが主張しすぎることなく、茶室全体の調和をつくり出しています。
ひと口の甘さが、気持ちをほどく
席に着くと、まずは季節の和菓子をいただきます。この日は新年にちなんだ椿と菊をモチーフにした美しい和菓子が用意されていました。思わず見とれてしまう美しさです。
黒文字という小さな木の楊枝で一口大に切り分け、お抹茶が点てられる前にいただきます。口に入れると、やさしい甘さが広がります。
静かな所作から生まれる一杯
続いて、先生が丁寧に点ててくださったお抹茶をいただきます。
茶碗を両手で持って軽く一礼し、正面の絵柄が相手に向くように茶碗を時計回りに180度回してからいただきます。一番華やかに絵付けされている場所が正面です。
お抹茶の鮮やかな緑と、ふわっと立つ香り。口に含むとやさしい苦みとまろやかな味わいが広がります。
この日の茶碗は、新年にあわせて金色に松があしらわれた華やかなもの。
器の選び方一つにも“おもてなしの心”が込められています。
「美味しかったです」と自然に言葉がこぼれ、静かな茶室で味わう一杯は、日常とは違う時間の流れを感じさせてくれました。
手の動きに、心を傾けてみる
茶道具の説明を受けたあと、いよいよ自分でお茶を点てます。
お抹茶が入った「棗(なつめ)」や、竹製の「茶杓(ちゃしゃく)」を手に取ります。
茶杓でお抹茶を軽く2杯(約2g)、約80度のお湯100mlほどを窯から「柄杓(ひしゃく)」で茶碗に注ぎ、いよいよ「茶筅(ちゃせん)」でお抹茶を点てる工程へ。
上部左:茶碗…お抹茶をいただくための器
下部左:茶筅(ちゃせん)…お抹茶を点てる竹製の道具
下部中央:茶杓(ちゃしゃく)…棗からお抹茶をすくい入れる道具
下部右:棗(なつめ)…お抹茶を入れる容器
窯に置かれている柄杓(ひしゃく)…湯をすくうための道具
先生から「泡立て器のように回すのではなく、手首を縦に振るのがポイント。反対側の手でしっかりと茶碗を持ちましょう」と教えていただきました。最初は緊張しながらも、20秒ほどリズムよく茶筅を動かすと、お抹茶の表面に細かな泡が立ちました。最後に「の」の字を描くように茶筅を引き上げます。
茶道では「音もご馳走」といわれています。茶筅を振るたびに静かに響く「サラサラ」という音が、茶室に静寂をつくり出していきます。集中して茶筅を動かすうちに、自然と気持ちが落ち着いていくのを感じました。
国を越えて、人の心に届く理由
竹田先生によると、茶道を体験した方は、「難しそう」「敷居が高い」という印象が、体験後には大きく変わるそうです。家でも気軽にお抹茶を点てることができると知り、日常に取り入れたいと感じる方が多いと言います。
茶道は季節感や五感を大切にしていて、細やかな日本文化を味わえるのが魅力です。
静かな茶室で、スマホを手放し、情報の喧騒から離れ、ゆっくりと自分と向き合うことで、「いつも忙しく過ごしているけれど、ここでは立ち止まって心を落ち着けることができた」と振り返る方もいらっしゃるそうです。
海外の方は、これまで抹茶ラテやアイスクリームなどでお抹茶を味わっていた方が多く、シンプルな抹茶の味わいに驚くことが多いそう。「茶室の雰囲気がピースフルで温かい」「心が癒される」「瞑想のような時間だった」といった声も多く、茶道の体験が心身のリフレッシュにつながっています。
茶道が今も受け継がれる理由
お茶を点てるだけじゃない、“おもてなし”の文化
「おもてなしの心」こそが茶道の本質です。
茶道ではお客さまを迎えるために、何日も前から道具を選び、茶室を整え、花を生け、打ち水をし、心を込めて丹念に準備をします。
一度きりの時間を、大切にするということ
茶道の精神は「和敬清寂」に集約されます。
和…お互いに心を開き、和やかに周りと調和する心
敬…自らは謙虚に、そしてあらゆるものに対して敬意を払う心
清…茶室や茶道具を清潔にし、気持ちも邪念のない清らかな心
寂…どんな時でも静かで乱されることのない動じない心
茶を点てる主人と客がお互いの心を和らげ、敬い、お茶室や茶道具だけでなく心も清らかに保ち、こだわりを捨てる。これが茶道の本質です。
また、「一期一会」とは、二度とない今という瞬間や出会いを大切にすること。
同じ人と同じ場所でも、同じ時間は二度とありません。今日という日をかけがえのないものと感じ、目の前のことに誠意をもって向き合う。それが一期一会の心です。人とのつながりが希薄になりがちな今だからこそ、心に留めておきたい考え方です。
今回の茶道体験は、忙しく動き続けている日常から、一度立ち止まるきっかけになりました。
ほんの数分でも、お茶を点てるだけで“小さな静寂”が生まれます。
茶道は思っているよりもずっと身近で、心を豊かにしてくれる日本文化です。
新しい年のはじまりに、自分のための丁寧な時間をつくってみませんか。
text「ハレの日、アサヒ」編集部

