命のリレー。 間伐予定の樹木を移植した「静けさの森」<前編>
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「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに開幕した「大阪・関西万博」。関西近郊にお住まいの方をはじめ、全国各地から訪れる予定の方も多いのではないでしょうか。
今回は「大阪・関西万博」の象徴のひとつとして、会場の中心に位置する「静けさの森」を詳しく見ていきましょう。前編では静けさの森の概要と、体験できるアートについて紹介します。

INDEX
「静けさの森」誕生秘話。こんなに広い森はどうやって作られたのか?

「静けさの森」は、中央に大きな池があり、その周囲を大阪府内の公園から移植された樹木が囲む、来場者が自由に散策できる場所です。この森のデザインを手掛けたのは、建築家・藤本壮介さんとランドスケープデザインディレクター・忽那裕樹さん。不揃いな樹木を組み合わせることで多様性を表現し、訪れる人々が静けさの中で未来に想いを馳せることができる空間を生み出しました。
「静けさの森」は、もともとそこにあったわけではありません。何もない場所に約2.3ヘクタールもの広大な森をどうやって作ったのでしょうか?既存の森を丸ごと移すことはできません。そこで植物学者や森を扱うスペシャリストとの議論を経て、約1,500本のうち約900本の樹木を大阪府内の公園から移植することになりました。
「結局は人間の都合では?」と思われるかもしれませんが、実はこれらの樹木は日照不足などにより、今後枯れていく可能性が高かったものです。森の健全なバランスを保つためには、間伐など人の手が加わることも必要であり、それは森を守るために全国で日々行われています。そういった木々を移植して再生させた新しい森が、「静けさの森」なのです。 今回移植される木々の中には、1970年に開催された大阪万博の跡地である万博記念公園から移植されたものもあります。まさに「命のリレー」が続いているのですね。
プロデューサーの宮田さんに聞く、「静けさの森」で体験できるアート
未来のコミュニティとモビリティ:トマス・サラセーノ氏《 Conviviality 》

トマス・サラセーノ氏の「Conviviality」は、「静けさの森」の上空に鳥の巣箱のようなオブジェが複数展示されており、生命の多様性が感じられる作品です。これらのオブジェは鳥や昆虫が自由に出入りできる構造となっており、動物のための特別な住処となっています。
また「Conviviality」は、化石燃料を使わずに移動できる「エアロシーン」というアイディアがベースとなっていて、「いのちに優しい、環境と調和した未来の社会」を想像する手がかりとなります。自然の循環する力を取り込み、テクノロジーと生態系を繊細に結びつける視点を育むことは、社会のこれからを見定める上でとても重要です。
「Conviviality」で思い描かれる、浮遊し共鳴する空間は、「いのち輝く未来社会のデザイン」という2025年大阪・関西万博のテーマを力強く体現するものと言えるでしょう。
健康とウェルビーイング:レアンドロ・エルリッヒ氏《 Infinite Garden – The Joy of diversity 》

「健康とウェルビーイング」というテーマについては、アルゼンチンのアーティストであるレアンドロ・エルリッヒ氏と共に取り組みました。このテーマは多くの場合、医療にまつわる問いが中心になりますが、私たちが重視したのは、ウェルビーイングの視点に立った再解釈です。今後は日本のみならず多くの国が高齢化社会に向かっていくため、ウェルビーイングという視点からの発想の転換が非常に重要であると考えています。そのため、この作品がもたらす発想の転換を視覚的・空間的な驚きの中で体験するアプローチは、来場者の皆さんに対しても重要な問いかけになると考えました。
今回の展示は、円柱状の空間に多様な植物が生い茂り、上から見るとホールケーキを十字に切ったような形になっています。切り目である通路を進むと、両側面に配置された鏡が自分自身や空、森を映し込み、無限に広がるような錯覚を体験できます。さらに外側に回り45度(あるいは135度、225度、315度)などの位置に立つと、目の前も鏡となっており、多様な植物の中に溶け込んだかのような感覚を味わえます。 この作品を通じて、“空へ無限に続く感覚”と“多様性の中に身を委ねる感覚”を味わっていただけます。こうした体験は、身体的・精神的・社会的なウェルビーイングをより深く考えるきっかけとなるのではないでしょうか。
text 「ハレの日、アサヒ」編集部
他にはどんな作品があるのかワクワクしますね。後編でも引き続き宮田プロデューサーにアート体験について伺います。お楽しみに!