京都・伏見の老舗 月桂冠に学ぶ日本酒のおいしさ(前編)
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食欲の秋!秋はおいしい料理に合わせて、お酒も進む季節ですよね。ビールやワイン、ウイスキーや焼酎もいいけれど、日本酒もぴったり。春先にできた酒を夏の間熟成させてから出荷する「ひやおろし」も出回り、秋はついつい日本酒を選んで飲みたくなるシーズンなのです。
特に秋に観光客が殺到する京都市は、“日本酒で乾杯”条例があり、日本酒の日常的な普及に力を入れています。今回は、その京都市の伏見区にある老舗・月桂冠で、日本酒の魅力を教わります。
INDEX
無形文化遺産に登録なるか?
そもそも日本酒とは? 国税庁の酒税法では、清酒は米、米こうじ及び水を原料として発酵させ、こしたもの(アルコール分22度未満)と定義されています。その中で、日本国内産米のみを使用し、日本国内で醸造したものが日本酒と呼ばれます。
カビの一種であるこうじ菌を使う酒造りは、世界的には珍しい製法だそうで、温度管理など丁寧で細やかな作業が必要となります。 日本の食文化や祭礼行事に深く関わる日本酒などの「伝統的酒造り」は、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産へ登録勧告が出され、注目されています。そう聞くと、普段あまり日本酒を飲んでいない方も関心が湧いてくるのではないでしょうか。
酒造りの歴史を学べる博物館
京都・伏見にある月桂冠大倉記念館を訪ねました。格式のある立派な建物で、伏見の歴史と月桂冠の酒造りについて知ることができる博物館です。月桂冠総合研究所製品開発課で新商品開発などのマネジメントを担当している、課長の小高敦史さんに案内してもらいました。
月桂冠の歴史は古く、前身である「笠置屋」の創業は寛永14年(1637)。徳川三代将軍・家光の時代です。戦国時代が終焉し、平和が訪れ安定した世で、能楽や落語などさまざまな文化が花開き始めました。その後、伏見は大坂、京、江戸を結ぶ交通の要所として栄えます。
「明治時代になり、飛躍的に事業を拡大したのが、11代目当主・大倉恒吉(1874~1950)。1909年に日本酒メーカー初の研究所を設立しました」と小高さん。
当時樽詰めが市場の主流だった中で、いち早くびん詰めを導入し、防腐剤なしのびん詰酒を初めて開発。「月桂冠」の商標を採用し、ラベルの制作などにデザイナーを起用したそうで、とても先進的なメーカーだったんですね。
この記念館には、貴重な史料がたくさん展示されています。小高さんに見どころを教わりました。 「例えば、明治時代、鉄道が発達し、車内での弁当などの需要に合わせて、冠頭におちょこを被せるという実用性が喜ばれ、デザイン的にも斬新な商品を開発しています」
「大正時代の1915年に、サンフランシスコ万博に出品された日本酒のボトルは、ワインのように洋風の意匠となっていました。これらは陶芸家でもあった京都の澤田宗山(1881~1963)によるデザインです」
「ラベルのデザインでもユニークな工夫がなされました。カタカナで“ゲッケイカン”と細かく印字されていますが、よく見ると一つだけ文字がさかさまに印字されています。これは模造品の防止のためだそうです」と小高さん。
月桂冠の大きな酒樽も、よくよく見ると、こんな絵が描かれていました。
名水から造られる日本酒を試飲
さて、歴史を学んだあとは、お待ちかねの試飲です!
入館の際に受け取ったおちょこと3枚のコインを使います。きき酒処にある専用のマシンにコイン1枚を入れ、好みの日本酒を選んでボタンを押すと、おちょこに一杯(少量ですが)注がれる仕組み。これで3種類のお酒を飲み比べできます。
この日は、「特撰(本醸造)」から、京都の米「祝」を使った「京しぼり祝米大吟醸」、「鳳麟純米大吟醸」まで9種類。午前中だというのに、外国人観光客も多く、試飲コーナーは大にぎわいでした。
外に出ると、酒造りに欠かせない名水「さかみづ」が湧き出ていて、こちらもおちょこで自由に飲むことができます。この水は、京都の山々から長い年月をかけて流れてきたもので、地下50m以下から汲み上げられているそうです。口にしてみると、なんとも滑らかで優しいお水です。酒造りに使用される仕込み水が試せるわけで、これまた貴重な体験といえます。
そして、井戸のそばに月桂樹の木を発見! まさに、この葉の付いた枝を輪にして冠にしたものが月桂冠。古代ギリシャでは勝者に名誉のしるしとして与えられたとか。 いやあ、本当によくできた見学コース。しっかりと頭の中に刻まれる気がします。勉強になりました。お酒もきれいな味わいでおいしかったです。
月桂冠の方に教わる“自分好みの一杯”
さて、ここまで読んだら、すぐにでも日本酒を飲みたくなりますよね。ご自宅でも日本酒を楽しめるよう、月桂冠の方に“自分好みの一杯”を教えてもらいました。月桂冠大倉記念館を案内してくれた小高さんに、好きな日本酒をお聞きします。
「私が好きなのは、定番の『つき』の炭酸割りです」
――え? 日本酒を炭酸水で割るんですか?
「はい。晩酌はこれです。特に、暑い日や濃いめ料理のときにはよく飲みますね」
――つくり方のポイントは?
「まずはグラスに氷を入れ、先に炭酸水をゆっくりと注ぎます。次に冷えた日本酒『つき』をこれまたゆっくり注ぎます。ドバドバ注いだり、日本酒の温度が高い状態で注いだりすると炭酸が抜けやすくなり、爽快感が損なわれてしまいます。日本酒と炭酸水の割合は1:1が目安です」
――なんと! 先に炭酸水を入れるんですね。
「ハイボールなど作るときは、ウイスキーを入れてから炭酸水を注ぐ順番ですが、日本酒の炭酸割りでは、炭酸水を先に入れることをお勧めしています。日本酒は炭酸水より重たい(比重が大きい)ことが多いので、自然と混ざることを狙ってこの順番になっているのです」
なるほど。では、さっそく『つき』の炭酸割りを試飲させてもらいます……ン!? これは!? なんと軽やかで爽やかで、すいすい飲みやすい。予想外のおいしさ! お代わりください(笑) スーパーやコンビニなどでも入手しやすい『つき』で、こんなに楽しい飲み方ができるとは。驚きました。
さて、次回後編は、一般には見学できない内蔵酒造場の昔ながらの酒造りを紹介します。
●月桂冠大倉記念館
京都市伏見区南浜町247番地 ℡075-623-2056
開館時間9:30~16:30(受付は16:00まで)
入館料 20歳以上=600円、13歳~19歳=100円、12歳以下=無料
※13歳以上の方はおみやげ付き、20歳以上の方は3種類のきき酒付き
休館日 8月13日~8月16日、12月28日~1月4日、ほか臨時休館日あり
https://www.gekkeikan.co.jp/enjoy/museum/
取材・文・撮影 インディ藤田