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生きるを愉しむウイスキー【2】個性豊かな原酒のつくり手

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生きるを愉しむウイスキー【2】個性豊かな原酒のつくり手

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創業90周年を迎えたニッカウヰスキーは新たなコミュニケーション・コンセプト“生きるを愉しむウイスキー”を掲げています。ウイスキーが持つ豊かな個性や多様な楽しみ方を通して、人生そのものを愉しんでほしいという思いを込めています。この連載では、ウイスキーの愉しみ方について、ウイスキーとともに人生を歩むプロたちが全4回にわたって語ります。連載を通してあなたのウイスキーの愉しみ方を見つけませんか?

第2回は、ニッカウヰスキーの宮城峡蒸溜所でウイスキーの原酒製造を担う職人が登場です。入社37年目の早川薫と入社17年目の横山徹に、自然を生かし、設備にもこだわり続けている原酒製造について聞きました。

左から、ニッカウヰスキー 仙台工場 製造第1部主幹 横山徹、製造第1部長 早川薫

ブレンドから生まれる新しい価値を目指して。宮城峡蒸溜所での原酒づくり

(早川)スコットランドでウイスキーづくりを学び、スコットランドに似た気候風土でのウイスキーづくりを目指して北海道・余市で創業した竹鶴政孝は、次なる夢として第二の蒸溜所での原酒づくりを考えていました。スコットランドでは、北側の地域をハイランド、南側の地域をローランドと呼び、それぞれの地域の個性を持ったウイスキーがつくられています。余市をハイランドだとすると、ローランドの原酒をつくるため、北海道の南にある東北地方を回り見つけた場所が宮城峡でした。

ウイスキーはつくり方が同じでも、気候の違いなど地域により全く異なるウイスキーが生まれます。異なる蒸溜所で生まれた複数の原酒をブレンドすることで、より味わい深く香り豊かなウイスキーをつくることができるんです。ブレンドは、足りないところをカバーするようなイメージを持たれている方もいるかもしれませんが、ブレンドは個性と個性を混ぜ合わせて、新しい価値をつくるものです。合わせ方によって、味わいとバラエティーが無限に増えていくんです。

それぞれの蒸溜所で生まれる個性豊かな原酒

(横山)余市蒸溜所と宮城峡蒸溜所では蒸溜の仕方が違います。余市は石炭直火焚き蒸溜で1000度から1300度と高い温度で蒸溜していますが、宮城峡は間接加熱蒸溜により130度くらいで蒸溜しています。
蒸溜釜であるポットスチルの形も違います。余市はストレート型で釜と冷却器をつなぐパイプのラインアームが下向きになっていますが、宮城峡はひょうたんの形に似ているバルジ型でラインアームが上向きになっています。

余市のストレート型は熱交換される部分が少なく、アルコール蒸気がすーっと上に上がるイメージです。アルコール蒸気が楽に逃げていくので、いろいろな味や香りを含んだまま上がっていくのが特徴です。宮城峡のバルジ型は表面積が大きいので、アルコールが気化したあと、熱交換される部分が多くなり液化しやすくなります。そのまま熱を加えることで蒸溜釜の中でアルコールが磨かれるイメージです。こうした蒸溜の温度と釜の形状の違いにより、余市は重厚で力強さのある原酒、宮城峡は華やかでフルーティーな原酒といったように異なる個性を持つ原酒が生まれます。

余市蒸溜所のポットスチル
宮城峡蒸溜所のポットスチル

「自然を大切にしなければおいしいウイスキーはつくれない」

(早川)政孝は「自然を大切にしなければおいしいウイスキーはつくれない」と言う信念を持っていたと聞いています。宮城峡蒸溜所は可能な限り敷地内の樹木は伐採せず、電線はすべて地下に埋設して景観を維持しています。整地をして土地を真っ平らにした上で建屋を作った方が効率的だと思いますが、自然を残す形で建物を建てているんです。場内に坂や小高い丘があるのもそのためです。

ウイスキーは熟成期間中、温度調整はせず、すべて自然のままです。高層の貯蔵庫だと上側と下側で温度が違うので、貯蔵中に熟成度合いも変わってきて、それが味のレパートリーになっています。AタイプBタイプCタイプなどの大まかなタイプはありますが、それらが何の商品をつくるためのどんな原酒になるのか私たちには分からないんです。原酒は自然の中で長い間熟成されることで育まれるので、自然に感謝して大切にすることは、当然のことかもしれません。

山と川に囲まれた自然豊かな宮城峡蒸溜所
湖に白鳥がいることも

手間がかかるカフェ式連続式蒸溜機にこだわる理由

(早川)一般的にウイスキーの蒸溜機と言えば単式蒸溜機と呼ばれるポットスチルを想像されるかと思います。単式蒸溜機は一定量の醗酵もろみをポットスチルに張り込み、熱を加えることでアルコールを気化し、これを冷却して液化したアルコールにします。一回目の蒸溜で得られたアルコールは初溜液と呼ばれ、初溜液を再度蒸溜して得られたアルコールを再溜液と呼びます。再溜液の綺麗な部分を本溜液と呼び、これを約63%に割水し、樽詰めしています。

一方のカフェ式連続式蒸溜機は、一定量のもろみを連続投入する蒸溜方法です。連続式蒸溜機の構造は単式蒸溜機が何段にも重なったイメージで、各段から得られたアルコールが次々と濃縮され95%程度のアルコールを連続的に得ることが出来ます。また繰り返しアルコールが濃縮されることによってアルコールの純度が高まり、単式蒸溜では得られないすっきりとした味わいのアルコールとなります。単式蒸溜はその都度開始と停止を繰り返しますが、連続式蒸溜では1週間程度は止まることがなく、運転管理において非常に気を使う手間のかかる蒸溜と言えます。

宮城峡蒸溜所のビジターセンターにあるカフェ式連続式蒸溜機の図解と模型。蒸溜機が何段にも重なっている

宮城峡で使用しているカフェ式連続式蒸溜機は、材質が銅の旧式と言われるものです。壊れやすく、メンテナンスが大変です。新型はステンレス製が多く、耐久性があるものや円柱型を採用していることが多いですが、原料そのものの甘みや風味を取りすぎてしまうと言われています。ウイスキー原酒は銅との接触によって甘味が出てくるので、ステンレスの場合は風味がなくなって辛くなってしまうんです。旧式は手間がかかって効率が悪いですが、それでも使い続けるのは、やはり出来上がるものが全然違うからですね。

トラブルが起きないように日頃から現場を回って音や匂いを感じ取って、いつもと違うと感じたらすぐに対処しておくことが大事です。順調な場合は、この時間にこの場所へ行くとこの音がするというのが長年やっていると分かるようになります。1週間程度連続して蒸溜するので、一度止まるととてもロスが大きく責任重大ですが、事前に対応できるようになると一人前の職人になったなと感じます。

手前の建物にカフェ式連続式蒸溜機が入っています
1963年にスコットランドでつくられたカフェ式連続式蒸溜機を使用しています

海外原酒の特徴までも追求する。あくなき原酒づくりへの挑戦

(横山)これまでニッカ独自の酵母を使用したさまざまなタイプの原酒づくりに挑戦しています。基本は酵母のタイプが決まっていますが、新しい挑戦をするときは、つくりたい原酒のイメージに合わせて酵母の数量を変えたり、酵母をかけ合わせたりと使い分けています。

最終的にはどんな原酒になるかは分からないですが、子育てみたいにこうなって欲しいという気持ちを持って、それに向かって自分たちがサポートするというように製造に挑んでいます。原酒をブレンドして最終的な商品にするブレンダーを画家に例えると、私たちつくり手は絵具を作る担当です。画家が描きたいものを自在に描けるように、いろいろな色を用意するのが使命だなと思っています。

また私たちは海外原酒特有の香りを作り出す研究に長年取り組んでいます。スコットランドのお酒の味や香りを日本ではまだつくりきれていません。海外原酒の特徴を生かしたい商品には、今は輸入した原酒を混ぜていますが、ゆくゆくは日本の原酒だけでそういった商品もつくれるようにしたいと考えています。そのためには、輸入している海外原酒と同じ特徴を持つものを自社でつくらないといけません。永遠のテーマですね。自分が定年を迎えるまでに叶えたい大きな夢です。

私の「生きるを愉しむウイスキー」を感じる時
 
『難局を乗り切った後の一杯』 早川
みんなで集まってワイワイやるのはもちろん愉しいですが、難局を乗り切った時に飲むウイスキーに勝るものはありません。製造現場では何らかのトラブルは付きものであり、製造を止めざるを得ないこともありました。
例えば蒸溜機でトラブルが発生したとき。仕込みなどの前後の工程は進んでいるので、発酵しているもろみを使えずにダメにしてしまうのでは?ととても苦しくなります。そんな中であらゆる知恵を絞って代替案を模索し、早期復旧に漕ぎ着けた時の充足感は何物にも代え難い喜びで、その時に飲む一杯が私の生きるを愉しむウイスキーだと思います。
最近はほとんどハイボールで飲んでいますね。宮城峡で育った私はピートの利いた余市らしいウイスキーが苦手でしたが、5年半の余市勤務で、ピート感が欠かせなくなりました。個人的に好きなウイスキーは余市のキーモルトである「シングルモルト余市 ピーティー&ソルティー」と宮城県限定の「伊達」になります。今はなかなか入手が難しく、特別な時にしか飲めないのですが…。少しでも多くのお客さまに届けられる日を楽しみに、良い品質の原酒をつくり続けていきます。

『人生の節目に渡す特別なウイスキー』 横山
自分にとってウイスキーは飲むというよりは人に渡すことが多く、特別な日にウイスキーを渡して、相手が笑顔になってくれるのがうれしいです。人生の節目節目で笑顔を生むアイテムというのが私の「生きるを愉しむウイスキー」です。これまでを振り返ると入社、自分の成人式、親の定年などの特別な日に、笑顔のそばにあるのがウイスキーであり、それがめったに手に入らない特別なウイスキーじゃなくても記憶の中では特別なものになっています。
普段寡黙な父がお酒を飲むと饒舌になって職場の人と笑顔で話しているのが印象的で、お酒は人を笑顔にすることができるものだと実感しています。長く貯蔵する原酒からつくるウイスキーは世の中に商品として出るまでに時間がかかるので、使われている原酒の全てを自分が手掛けた商品というのは、入社17年目の私でもなかなかありません。自分でつくったウイスキーだと堂々と言えるウイスキーをお届けできるようになって、皆さんの笑顔を増やしたいですね。
自分が飲む場合には、「宮城峡」のフルーティーな甘さがあるものが好きで、好きな飲み方は水割りです。体調にあわせながら調整できる水割りが私に合っている飲み方なんです。

生きるを愉しむウイスキー【2】個性豊かな原酒のつくり手

飲む

生きるを愉しむウイスキー【1】マーケターと見つける新たな愉しみ方

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