発酵料理家・真野さんに聞く、”やさしくおいしい”発酵の取り入れ方
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「発酵ってなんとなく体に良さそうだけど、なんだか難しそう…」そんな風に思っている方も多いのではないでしょうか。実は発酵は、私たちが毎日使っているみそやしょうゆといった調味料にも含まれる、とても身近な存在。今回は、発酵料理家として活動されている真野さんに、発酵の魅力や暮らしに取り入れるコツについてお話を伺いました。真野さんの体験談とともに、もっと身近で親しみやすい発酵の世界をご紹介します。

プロフィール
発酵料理家 真野 遥
1990年生まれ。法政大学人間環境学部卒業。大学時代は、発展途上国の開発と環境問題を専攻。ものづくりに興味を持ち、新卒で素材系専門商社の営業職として就職するものの、「一番身近なものづくりである料理に関わる仕事をしたい!」と思い至り、食の世界へ。
祐成陽子クッキングアートセミナーでフードコーディネーターの資格を取得後、飲食店や料理研究家アシスタントとして経験を積み、2016年に独立。現在は、日本酒に合う料理の提案を中心に、レシピ考案やコラム執筆、メディア出演、料理教室講師など幅広く活動している。
INDEX
発酵ってこんなに奥深い!その魅力とパワー

―まず、発酵とは何かについて教えていただけますか?
発酵とは、微生物の働きによって食べものの成分が変わり、味や香りが良くなったり、長持ちするようになる現象のことです。体にとって良い成分が生まれれば「発酵」、反対に悪いものができてしまうと「腐敗」と呼ばれます。発酵は食べものだけでなく、お薬を作るときや、水をきれいにする技術、工業分野などにも使われています。
―発酵のメリットにはどのようなものがありますか?
発酵の健康面でのメリットは、大きく3つあります。
まず1つ目は、栄養価が高まること。発酵の過程で食材が分解され、それまでになかった栄養素が生まれます。2つ目は、消化吸収を助けること。分子が小さくなることで、胃腸への負担が軽減され、体に取り入れやすくなります。3つ目は、腸内環境の改善です。乳酸菌などの善玉菌が増えたり、善玉菌のえさとなる成分が生まれたりすることで、免疫力や肌の調子、睡眠の質にも良い影響があるとされています。さらに、健康面とは少し別ですが、発酵によって生まれる酸などには食べものの腐敗を防いでくれる働きもあり、保存性が高まるというメリットもあります。
―日本の発酵文化にはどのような特徴があるのでしょうか?
日本の発酵文化の一番の特徴は、麹を使った発酵食品が多いことです。ニホンコウジカビ(アスペルギルス・オリゼ)という、日本特有の菌を使った発酵は、みそ、しょうゆ、みりん、米酢などの調味料作りに欠かせません。これらがないと和食は成り立たないと言っても過言ではありません。
また、日本は南北に長く、地域ごとに気候が大きく異なるため、各地で独自の発酵食品が発展してきました。そのため、日本全体で見ると発酵食品の種類がとても多く、多様性に富んでいるのも興味深い特徴です。例えば、東北地方には麹漬けという古くから伝わるお漬物があり、塩や米麹、蒸し米と野菜を混ぜて作ります。このように、その土地ならではの暮らしの知恵から生まれた発酵食品が各地にあります。
真野さんが”発酵”に惹かれたきっかけ

―発酵料理家になるまでのストーリーを教えてください。
きっかけは、日本酒に魅了されたことでした。日本酒は、ほかのお酒と比べて日本食との相性が抜群で、特に食材の旨みを引き立ててくれるところに魅力を感じました。
フードコーディネーターとして活動していた時期に、日本酒に合う料理に特化した活動をしていく中で、さまざまな蔵元さんを巡るようになりました。そこで気づいたのが、日本酒と発酵食品はすごく相性が良いということ。同時に、発酵という現象そのもののおもしろさにも興味を抱くようになりました。
お米と麹、水というシンプルな材料から生まれる日本酒は、味わいがとても多様で奥深いものです。「発酵ってすごい」と感じたことがきっかけで、みそ蔵やしょうゆ蔵などにも足を運ぶようになり、発酵について学び、自分でも試作を重ねていきました。
―発酵と出会って、真野さんご自身や周りに変化はありましたか?
発酵はすごく科学的なものなので、人に伝えるには理論の理解が欠かせません。発酵と出会ってから、自分の中に隠れていた“研究欲”のようなものが刺激され、論文を読んだり、東京農業大学の醸造学科に通ったりするようになりました。
発酵について学び深めていく中で、多くの人と出会い、さまざまなことを教えてもらう機会が増えていきました。そうしたご縁が自然とつながりを生み、気づけば仕事にも広がっていて、まるで人間関係や暮らしそのものが「発酵」していくような感覚です。
発酵の魅力のひとつは、こうして人と人とのつながりを自然と育まれていくところにあると思います。
忙しくてもOK!暮らしに”発酵”を取り入れる3ステップ

―忙しい人でも発酵を取り入れられる方法を教えてください。
発酵のある暮らしは、段階的に取り入れていくのがおすすめです。
- ステップ1 良い発酵調味料を使う
一番手軽なのは、身近にある基本的な発酵調味料をちょっと良いものに変えることです。例えばみそなら天然醸造のみそを使ってみる、など。そういった基本的な調味料を丁寧に選んで、和食中心の食事にするだけで、もう十分「発酵のある暮らし」と言えます。
みそ選びのコツのひとつとして、木桶仕込みのみそがおすすめです。木桶で仕込んでいるみそは、ほぼ天然醸造で作られていて、こだわりのある蔵元さんしか作っていないので、蔵の個性がすごく現れて風味が豊かに感じます。
- ステップ2 自家製発酵調味料作りにチャレンジ
次の段階として、塩麹、甘酒、しょうゆ麹などの自家製発酵調味料作りがおすすめです。ただし、毎日かき混ぜる必要があるので、その手間で挫折する方も多いです。
そこでおすすめなのが、ヨーグルトメーカーを使うこと。私は60度で8時間という設定で統一していて、塩麹や甘酒、しょうゆ麹、玉ねぎ麹などは毎日混ぜなくても一晩で作れてしまいます。ヨーグルトや納豆も作れますが、それぞれに適した温度と時間の設定が必要です。本当にいろんな発酵食品が手軽に作れるようになりますよ。
これらの発酵調味料は、今まで使っていた調味料の代わりに置き換えて使うと取り入れやすくなります。塩の代わりに塩麹、しょうゆの代わりにしょうゆ麹、砂糖の代わりに甘酒といった具合に。特にお肉やお魚の下処理で使うと、柔らかくなって旨味が増して、本当に劇的に変わります。
- ステップ3 発酵の世界が広がる!まずは手前みそから
みそ作りは仕込んでしまえば置いておくだけなので、実はあまり手間がかかりません。大豆と麹と塩で作るシンプルなものですが、乳酸菌や酵母菌、麹菌などが関わる複雑な発酵食品で、体にもとても良いです。
まずはみそ作りから始めてみて、慣れてきたらキムチやぬか漬け、魚醤など、少し上級者向けの発酵食品にも挑戦してみると、発酵の世界がぐっと広がっていきますよ。
自家製のみそがあるだけで、毎日のおみそ汁のありがたみがすごく増しますし、自分で食べるものを作っていることへの暮らしの安心感も得られます。まさにお守りのような存在になってくれます。


今注目の発酵食品!真野さんのおすすめ紹介
―最近真野さんがハマっている発酵食品について教えてください。
今、一番ハマっているのは「なれずし」です。「なれずし」は塩漬けにした魚とご飯を一緒に発酵させて作る伝統的な発酵寿司になりまして、私は鮒(ふな)を使って毎年漬けています。少しマイナーであまり注目されていないからこそ、自分で発見していく楽しさがあります。
なれずしを漬けたときに使うご飯は「飯(いい)」と呼ばれ、この飯(いい)は料理に幅広く活用できます。例えば、カレーに入れたり、シーザーサラダのドレッシングに加えたり、グラタンに混ぜたりしています。酸味とうまみが強く、チーズのような風味を加えてくれます。
―日常に取り入れやすい発酵食品でおすすめはありますか?
玉ねぎ麹は塩麹の玉ねぎバージョンで、すりおろした玉ねぎと米麹、塩で作ります。うまみが強く、特に洋風の料理に使いやすい調味料です。
「コンソメの代わりになる」とも言われており、パスタのトマトソースやポタージュに加えると風味が豊かになります。カレーやスープにもよく合い、洋風の味わいを引き立てます。
海外の発酵食品では、ザワークラウトもおすすめです。キャベツを千切りにして、2〜3%の塩で揉んでから重しをして1週間ほど漬けるだけ。乳酸菌がたっぷり含まれていて、腸活にも良く、お肉との相性も抜群です。
発酵初心者が気をつけたいポイント
―発酵初心者が注意すべき点はありますか?
まずは衛生面をしっかり守ることが大前提です。発酵は菌を培養していることになるので、念入りに手を洗ったり、必要に応じて手袋をしたり、カビがはえたら食べないなど、安全への配慮は欠かせません。
また、基本の作り方をマスターしてからアレンジすることも大切です。中途半端に自己流で取り組むと失敗しやすいので、まずは基本の作り方を参考にして、ある程度作れるようになってから自己流のアレンジを加えるのが良いでしょう。
そして食べ過ぎに注意することです。健康に良いからといって過剰に摂取すると、逆に腸内環境が乱れてしまうことがあります。あくまでバランス良く、基本的な食事をベースに取り入れることが大切です。
発酵のある暮らしを始めよう!
―最後に、発酵に興味はあるけれど、なかなか踏み出せない方にメッセージをお願いします!
皆さんそれぞれに、普段の食事のスタイルやリズムが違うと思うので、まずはご自身の生活スタイルに合った発酵との付き合い方を見つけてほしいです。塩麹から始めるとか、みそ作りから始めるとか、さまざまな始め方があるので、試してみて自分にフィットするものを見つけてください。
また、発酵食を自家製すると失敗はつきものです。私も何回も失敗して、罪悪感を感じることもありましたが、失敗は次につながる大切な経験です。先人たちも多くの試行錯誤を重ねて、今の発酵文化を築いてきました。ぜひ失敗を恐れず、自分なりに探求しながら、ちょうど良い方法を見つけてほしいと思います。
発酵食品は本当に楽しくて奥深い世界です。まずは身近なところから始めて、その魅力を少しずつ感じていただけたら嬉しいです!
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