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球場を軽やかに駆け巡る!「背負い式ビールサーバー」の開発秘話

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球場を軽やかに駆け巡る!「背負い式ビールサーバー」の開発秘話

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球場の階段を上り下りしながら、鮮やかな手つきでビールを販売するキャストたちは、球場の風物詩の一つです。
そんなキャスト一人一人が背負っているのは、ビールの樽が入った「背負い式樽生サーバー(以下、背負い式サーバー)」。
どんな構造なの? 重くない? 暑い中でもなぜキンキンに冷えているの? など気になることが盛りだくさん。
「人間工学グッドプラクティス賞」の優秀賞にも選定されたこのサーバーについて、担当の志村に話を聞きました。

現在のサーバーは3代目。初代は金属製だった!?

―背負い式サーバーとはどういったものなのですか?

野球場の座席を販売キャストの皆さんが巡りながら、効率的にビールが注げるよう開発されたリュックタイプのサーバーになります。飲食店でも使われるビールの樽が、そのまま入れられる構造になっているのが特徴です。飲食店では樽に大きなガスボンベをつなぎ、樽内のビールを押し出すのですが、球場だと大きなものは持ち運べないので、携帯用の小さなガスカートリッジをつなぎます。小さなカートリッジでもビール樽1つ分は注出できるので、樽交換時にガスカートリッジも一緒に交換する形で大丈夫です。

現在使用されている背負い式サーバー

―アサヒビールの背負い式サーバーは何種類かあるのですか?

歴代3種類の背負い式サーバーが展開されて、初代が誕生したのは1980年代だと聞いているのですが、そこから2回のバージョンチェンジを経て、今あるものは2015年に完成した3代目。3代目になってからは現場のキャストの皆さんにも好評で、不備なく今でもご使用いただいています。ちなみに初代は金属でできたサーバーで、とても重かったようですよ。

―金属製のリュック! それは相当重そうですね。

ええ、樽をそのまま入れる必要があるので、ある程度の強度がなければいけないということで、金属が採用されたようです。ただ、背負うのがあまりにも大変だということで、1990年代に登場した2代目以降は布製のサーバーが採用されています。

初代の背負い式サーバー

人間工学に基づいたサーバーの開発

―現在使われている3代目のサーバーが開発された経緯を教えてください。

2代目で布製のサーバーが開発され、金属製よりも随分楽になって「軽くなった」とのお声も届いていました。ある春先頃に当時のサーバー開発担当者が球場を訪れた際に、販売キャストの方々がすごく汗をかきながらビールを販売する姿を見て、「肌寒いこの時期でも、こんなに大変なんだ」とハッとし、新しい背負い式サーバーを開発する必要があるとプロジェクトを立ち上げました。

当初はとにかく軽くしなければならないと考えて樽の容量を減らせればと思いましたが、それだと樽を頻繁に交換しなければならず、より一層負荷もかかってしまう。そこで、樽の容量はそのままに、軽く感じられるようなサーバーを開発しようということになりました。

2代目の背負い式サーバー

―サーバー自体を軽量化することになったのですか?

というよりは、人間工学的に“軽く感じられる”ことを一番にアプローチしていった形です。重いものを背負う際、どの部分をしっかりサポートするかで軽く感じるか、重く感じるかが異なることに着目しました。
2代目から3代目で大きく変わった部分は、重心の位置と腰のベルトです。重いサーバーを背負うと前傾姿勢になりがちなんですが、それだと腰に負担がかかってしまうため、サーバー内部にアルミフレームとクッション性のあるプレートを入れて重心位置を高くするように変更しました。プレートは複数個付属し、背負う人それぞれの身長や体型に合わせてプレートを追加したり減らしたりして高さを調整することで、どんな人でも前傾姿勢になりにくく、真っ直ぐな姿勢で背負えるように工夫しました。
また、締めやすい腰のベルトに変更して、肩だけでなく骨盤でも支えられるようにしています。腰のベルトは丈夫でフィットする素材を採用しているので、重いサーバーを背負ってもズレにくいです。

―重さによるズレやブレが、背負う人の負担になっているわけですね。

現場の声を反映しながら開発に取り組む

―開発時に苦労したことはありましたか?

当時、背負い式サーバーの開発担当者が男性だったのですが、キャストの方々の多くは女性ということもあり、身体の特徴がうまく掴み切れずに苦労したという話を聞きました。実際に「これで完成だ!」と現場に持って行きキャストの方に背負ってもらうと、思っていた以上にフィットせずにやり直したことが何度もあったようです。

また、すごく汗をかくので不快感をなんとかしてほしいとの声もあったそうです。通気性をよくする構造にしたりベタベタしにくい素材を採用したりと、現場の声を反映しながら開発していったと聞きました。

―通気性をよくする構造とはどのようなものなのですか?

サーバーと体が触れている背中にとくに汗をかく、とのことだったので、接触面がなるべく少なくなるように凹凸を設け、素材もメッシュにしています。また、体温がサーバーに伝わって樽が温くならないように、サーバーの中に厚めのスポンジを入れ込むなどして樽と体が離れるようにもしています。

メッシュの生地・凹凸を入れて接触面を少なく

もっと快適にビールが注げる未来を目指して

―こんな背負い式サーバーを開発してみたい!など、夢のようなことでも構いませんのでぜひお聞きしたいです。

私が願うのは、キャストの皆さんの負担を少しでも減らしたい!ということです。3代目になり、軽く感じられるような構造にはなったのですが、サーバーと樽とガスを合わせると18kgほどになり、「軽い」といえるほどの重量ではありません。強度はあるけれどすごく軽い、そんな素材ができれば、いち早く取り入れて開発につなげたいと思っています。

また、キャストの皆さんは現状女性が多いこともあって、同じ女性である私が当社で初めて背負い式サーバーを担当することになりました。女性の体形も男性の研究者よりもよく分かっているので、同性ならではの視点を生かして開発ができればと思います。

―さらに快適なサーバーに向けて、しっかりと走り出されているのですね。

はい。生地の強度など少しずつ変えている部分もありますので、引き続きアップデートをしていきたいです。キャストの皆さんが快適にビールを販売でき、球場に来られるお客さまも「野球を見ながらビールを飲むのは最高だ!」と笑顔でいられる、そんな光景が今後も続いていくように頑張りたいです!

実際使用している「阪神甲子園球場のアサヒキャスト(以下、キャスト)」と現場担当の「アサヒドラフトマーケティング(以下、ADM)」に話を聞きました。

アサヒキャスト

―背負い式サーバーについて、快適さ・使いやすさはいかがでしょうか?

キャスト:2代目の背負い式サーバーも使用した経験がありまして、2代目の時は、リュックに背中を支えるポールがなかったので、肩への負担が大きく、前傾姿勢になってしまっていました。現在の背負い式サーバーには背中にビール樽を支えるポールがあるので、姿勢が正しくなり、肩も全然痛くなく、負担も軽減されました。以前よりも動きやすさを感じますね!

ADM:ビール樽の交換は、「チェッカー」という担当が行います。試合中のため交換作業はなるべく早く行わなければならないのですが、現在の背負い式サーバーはリュックの前面から大きく蓋が開く形になっているため、ビール樽を交換しやすいです。2代目の時は上の蓋のみが開く構造だったので、ビール樽を持ち上げて交換しなければならず、その点で現在の背負い式サーバーはより簡単に交換ができるようになったと思います。

―通気性をより良くするため、背中がメッシュ生地になっていると伺いました。通気性についてどのように感じますか?

現場での使用風景
ビール樽を交換している様子

キャスト:試合中、球場内のお客さまに販売する際、客席の一階から三階まで上り下りすることが多いのですが、たしかに実際には汗を感じることはあまりありません!

―ビール樽が入った重さのあるものだと思うのですが、使いやすく、動きやすく、さらに通気性が良いのはすごいですね!

ADM:使いやすさ、動きやすさはもちろんですが、耐久性もありまして、背負い式サーバーのリュック自体とても長持ちで3代目が導入された当初から現在まで使用しているものもたくさんあります。

―長く使える魅力もあるのですね。最後にこれからの背負い式サーバーについてお聞かせください。

キャスト:さまざまな人がキャストとして背負い式サーバーを使用するので、それぞれの骨格にフィットする形状など、さらに快適に使えるようになればよりいいなと思っています。

ADM:開発部門に現場の声を届け、さらに快適な背負い式サーバーになるよう一緒に取り組んでいきたいと考えています!

背負い式サーバーについてのインタビューいかがでしたか?球場ならではのビールの楽しみ方の裏側には、こんな思いや工夫があったのですね。これから球場で見かけた時はぜひリュックの形状などにも注目してみてくださいね。

取材・文:木村桂子

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