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ビール酵母の力で広がる新しい稲作のかたち

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ビール酵母の力で広がる新しい稲作のかたち

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気候変動や農業従事者の減少、コメの価格高騰⋯⋯稲作を取り巻く環境が厳しさを増す中、“ビール酵母”が新たな希望となっています。

アサヒバイオサイクルが開発した「ビール酵母細胞壁由来の農業資材(以下、ビール酵母資材)」は、従来の栽培方法と比べて、収穫量を維持しながら環境負荷を低減できる「節水型乾田直播栽培※1」のカギとなり、日本全国、そして世界へと広がり始めています。

※1「節水型乾田直播(せっすいがたかんでんちょくは)栽培」:水を張らない田に直接種をまき、数回の走水で育てる農法。従来の水田栽培に比べて水使用量と作業工程を大幅に削減でき、環境負荷の軽減や作業効率の向上にもつながる。

“もう稲作は無理かもしれない”-あきらめかけた農家の挑戦

実際に「節水型乾田直播栽培」に挑戦している、福島県の楪(ゆずりは)園芸さんにお話を伺いました。

「もう稲作はやめようと思っていたんです」と語るのは、福島県で農業を営む楪園芸の柏原秀雄さん。

「近年の気候変動の影響により、水不足が常態化。さらに、中山間地域では土地が斜面で小さく、形も悪いため、耕作放棄地が急増し、獣害も頻発しています。このように、農業には不向きな条件が揃っていました」

そんな中、柏原さんの目に留まったのが、北海道・網走の福田農場さんによる「畑地水稲栽培」の取り組みでした。

「冷涼な気候からコメの栽培は難しいとされていた網走で、水を張らずに稲の栽培に成功した事例に感銘を受け、すぐに網走まで足を運びました。
畑に稲が育っている光景を目の当たりにして、衝撃を受けました。
これなら福島でもできるかもしれないと思い、次の日には稲作を始める準備をしていました」

楪園芸 代表取締役の柏原秀雄さん

0から1を生み出す「ビール酵母資材」の力

「『節水型乾田直播栽培』に挑戦し、1年目、2年目はうまくいきませんでしたが、3年目でようやくしっかり育ってくれました」

挑戦を支えたのが、アサヒバイオサイクルの「ビール酵母資材」。楪園芸では8年前から長ネギやサツマイモの栽培に使用していたこの資材を今年からコメ作りにも応用。

楪園芸が実証を行っている「節水型乾田直播栽培」の田んぼ。斜面の土地でも稲作が可能に!

費用対効果が高く、作業もシンプル。柏原さんは「できない」と決めつけて課題を見過ごすのではなく、「新しい価値を生み出す“0から1”の挑戦こそが大事」と語ります。そんな柏原さんにとって、ビール酵母資材はその挑戦を後押ししてくれる心強い存在となっています。

また、「節水型乾田直播栽培」は作業工数が従来の半分以下に抑えられるため、農家の負担軽減につながります。効率化によって、楪園芸では提携農家からの田植えや管理を請け負う業務にも対応できるようになりました。農家にとって、人手不足や高齢化の課題を乗り越えるきっかけとなります。

もみの中にはしっかりと実がつまっている。あと少しで収穫。(10月中旬撮影)

「福島にも、日本全国にも耕作放棄地は数多くあります。農業のさまざまな課題がありますが、『ビール酵母資材』の力を借りながら、これからも農業を続けていきたいと思っています」

耕作放棄地には「ギシギシ」などの雑草が生い茂り、3~4年も経てば林のようになってしまう。農地の再生には多大な労力が必要

震災跡地での挑戦と地域再生への思い

福島・大熊町。東日本震災の爪痕が残るこの地で、柏原さんは稲作の挑戦を始めました。

「新しいことを始めると、必ず『なんでそんなことをするの?』と言われます。震災跡地で農業をすることに否定的な声も多かった。
でも、放置すれば耕作放棄地が増えるだけ。人と動物の境界も曖昧になり、農業人口も減っていく一方です」

柏原さんは「耕作放棄地を減らしたい」「農家の人手不足を解消したい」という強い思いを抱いていました。一方、大熊町も「農地を荒廃させず、営農できる環境を整え、次世代に引き継ぐ」という営農再開ビジョンを掲げています。両者の想いが重なり、タッグを組むことになったのです。
この連携により、震災跡地の耕作放棄地だけでなく、地域の子どもたちに農業を身近に感じてもらう取り組みとして、義務教育学校「学び舎 ゆめの森」のグラウンドでも稲作が行われています。

大熊町の震災跡地(10月下旬撮影)
「学び舎 ゆめの森」グラウンドでの稲作(10月下旬撮影)

11月下旬、「学び舎 ゆめの森」グラウンドの稲が黄金色に輝きました。子どもたちの手によって収穫!

「日本の農業人口は減り続けています。コメ不足による価格高騰が起きる中でも、安定的にお米を供給できる体制を築きたい。さらに農地を広げて、日本の農業が抱えるさまざまな課題の解決につなげていきたいと考えています」

柏原さんの挑戦は、地域の再生だけでなく、日本の農業の未来を照らす希望でもあります。

農家とメーカーが何度も試行錯誤を重ね、最適解を見つけていく

左から:アサヒバイオサイクル アグリ事業部 今林寛和、楪園芸の柏原秀雄さんと息子の孝輔さん、アサヒバイオサイクル アグリ事業部 上籔寛士

乾いた田んぼに命を吹き込む-農水省プロジェクトとケニアに広がる取り組み

アサヒバイオサイクルは、2024年4月から農林水産省が主導する「節水型乾田直播栽培の実証実験プロジェクト」に参画し、「ビール酵母資材」を活用した稲作の実証実験を全国規模で展開しています。

2024年の埼玉県の生産者データ(ヤマザキライス調べ)によると、「ビール酵母資材」を活用することで、従来の水田栽培と比較して干ばつに強い根が育ちました。さらに、稲の成長に合わせて田んぼの水量を調整するなどの手間も軽減され、これまで約70日間必要だった水管理が、わずか5回程度の走水※2で対応できるようになりました。また、GHG(温室効果ガス)排出量はCO2換算で約65%削減することにも成功しています。

※2「走水(はしりみず)」:田に水を張らずに乾いた田に水を流して保水する

水を張らない「節水型乾田直播栽培」は環境にもやさしい

2025年2月からは、同省が主導する「グローバル・サウスにおける食料自給率向上のための節水型乾田直播栽培プロジェクト」にも参画。ケニア共和国での稲作に「ビール酵母資材」の提供と技術支援を行い、開発途上国における農業課題解決への貢献を目指しています。

ケニアでの種まきの様子

そもそもビール酵母とは、ビールの製造過程で使用される酵母菌と呼ばれる微生物の一つで、発酵を通じてアルコールを生み出す役割を担っています。ビール製造後に残ったビール酵母は、栄養分やうまみ成分を含んだ中心部分と、それを殻のように覆う“ビール酵母細胞壁”で構成されています。

ビール酵母細胞壁には、マンナン(糖の一種)やβ-グルカン(食物繊維の一種)といった成分が含まれており、これらが植物の免疫力を高め、土壌環境を整える働きを持つことが分かっています。

このビール製造過程で得られる酵母細胞壁を、アサヒグループの特許技術を活用し再利用したものが「ビール酵母資材」です。資材に含まれるRCS(活性炭素種)によって、稲がポジティブなストレスを受けた状態になり、根張りが強くなることで稲の品質と収穫量の向上が期待できます。

「ビール酵母資材」の仕組みと効果
根張りの差が一目瞭然! 左:「ビール酵母資材」を使用している稲/右:資材を使用していない稲

「ビール酵母資材」を活用した「節水型乾田直播栽培」は、国内のコメ不足や農業人口の減少といった課題の解決に貢献するだけでなく、海外でも稲作の新たな選択肢として注目を集めています。

都会の屋上でコメ作り?恵比寿ビルから始まる新しい試み

アサヒバイオサイクルの社員が、「オフィスビルの屋上でもコメが育つのでは?」と考えたことをきっかけに、今年からアサヒグループ恵比寿ビル屋上でコメ作りを始めました。
その様子をアサヒバイオサイクルの今林に聞いてみました!

屋上はコンクリートの上に約30~40cmの土を盛っただけの環境で、砂利が多く保水性が低い状態でした。そんな場所で、4月中旬に雑草を手作業で除去し、5月には種もみを直接まいて栽培を始めました。

まずは1m×1mほどの小規模な区画からスタート

実際にやってみると、鳩やバッタ、カメムシなどの害虫対策も必要で、網を張ったり防虫ネットを使ったりと試行錯誤の連続でした。土の厚みや質の改善、水やりの自動化なども今後の課題となりました。

「『節水型乾田直播栽培』の技術を、都市部のビル屋上でも活用できる可能性があると考えています。これが実現すれば、ヒートアイランド対策や都市の緑化にもつながると期待しています。今後は、コメだけでなく、大麦や葉物野菜など、さまざまな作物の栽培にも挑戦する予定です。こうした取り組みが広がれば、他企業の屋上でも同様の活用が進み、都市全体の環境改善に貢献できると考えています」と語る今林。

社員による屋上での栽培、これからもさまざまな挑戦が続いていきます。

ビール酵母の力で広がる、環境にも人にもやさしいコメ作り。
この挑戦が、持続可能な暮らしの第一歩となることを願っています。
今後の展開にもぜひご注目ください!

text 「ハレの日、アサヒ」編集部

ビール酵母の力で広がる新しい稲作のかたち

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北海道の最果てで、畑で育てるお米づくりにチャレンジ!

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ビールづくりの副産物「ビール酵母細胞壁」が農業にお役立ち!

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