京都・伏見の老舗 月桂冠に学ぶ日本酒のおいしさ(後編)
この記事のキーワード
SHARE
江戸時代の寛永年間創業という老舗の日本酒メーカー月桂冠。京都・伏見で名水を使って造られる日本酒はどれもおいしい。後編はそのおいしさの源でもある、昔ながらの酒造りが行われている内蔵酒造場、そして品質の安定向上と革新的な商品開発などに取り組む総合研究所を特別に見学させてもらいます。
INDEX
昔ながらの酒造りを実践する内蔵
「ようこそ、いらっしゃいました。お待ちしておりました」
笑顔で迎えてくれたのは、月桂冠の杜氏、相川元庸(あいかわ・もとつね)さん。内蔵酒造場で、但馬流の伝統的な技法による酒造りを担っています。
内蔵酒造場は、月桂冠大倉記念館の中庭を挟んで、向かい側にあります。建造されたのは、1906年(明治39年)。濠川沿いから見える内蔵は、酒どころ伏見を象徴する風景としても有名です。
「明治時代は前蔵、中蔵、奥蔵と3つの蔵が連なり、複合型の造りをしていました」と話す相川さんに内蔵の中を案内してもらいます。
まずは、酒造りの工程をわかりやすく図解されたもので確認します。
内蔵では、蒸米、こうじづくり、酒母づくり、醪(もろみ)の発酵などが昔ながらの手法で行われ、大吟醸クラスの日本酒が造られます。
この日は、仕込んで26日目の発酵タンクを特別に見学。昔、仕込みに使われていた木桶の中に鋼鉄製の発酵タンクが設置され、側面のガラス窓から発酵中の様子を見ることができます。
タンクの上部から中を見せてもらうと、ミルキーで甘い香りがします。
「櫂(かい)入れは、かき混ぜるというよりは、中の具合を尋ねるかのように優しく行います」と相川さんが実践してくれました。
内蔵には、他にもさまざまな設備や用具があります。米蒸し用の甑(こしき)は、この大きさと設え(しつらえ)。
内蔵には二階もあり、こちらにも用具類が保管されています。
こちらは、暖気壷(だきつぼ)。酒母の温度を上げて糖化を促進する際に使うものだそうです。
近代的な大手蔵とラボのような総合研究所
昔ながらの酒造りの現場のあとは、近代的な大手蔵工場へ。ここからは、月桂冠総合研究所・製品開発課で新商品の開発や既存商品の改良などに携わっている青木俊介さんに案内してもらいました。
「こちらの1号蔵は1961年に竣工されました。2号蔵は1973年。年間を通して酒造りができる四季醸造蔵です」と、青木さん。
2号蔵は、5階建てなのに10階分の高さの内容があるというビルの中で酒造りが行われています。最上階には大規模な製麹室を持ち、上の階から下の階へ、工程順に効率よく日本酒が造られていきます。
工程の一つ、連続蒸米機で蒸されたばかりの米を見せてもらいました。パラパラな感じなのに、指でこねるとすぐに団子状になる粘りがあります。
温度管理のできるタンクでもろみが造られますが、この日は、ちょうど25日目。自動冷却装置の付いた発酵タンクは“大倉式”と呼ばれています。日本で初めて四季醸造を実現しただけあり、先駆的なシステムばかり。
そして、より先進的な研究が行われている総合研究所へ。設立は1909年(明治42年)。当時、流通していた日本酒のなかには劣化してしまうものも多く、月桂冠の11代目当主・大倉恒吉は安心できる酒造りのため、科学技術を取り入れようと研究所を設立。防腐剤なしの瓶詰め日本酒を普及させることにつながりました。
総合研究所の中に入ると一瞬、ここは科捜研?と見紛う、まさにラボ。日本酒で初めての『糖質ゼロ』やメロンのような香りがする『果月』、アルコール分5%の日本酒『アルゴ 日本酒5.0』などは、ここで開発されました。
「さまざまなデータを細かに管理、分析しています。こちらでは、この小さな容器で言わば酒造りのミニ版もやっています。さまざまなタイプのこうじを造り出せますし、酵母も超低温で数千種類以上保管しているので、新しいことに挑戦できます」と青木さんは胸を張ります。
圧倒されます、さすがです!これだけ細やかで多岐にわたる研究をされているから、さまざまな商品が生まれてくるのですね。日本酒を勉強したいというワイナリーの醸造家の声を聞くことがありますが、原材料や水の吟味、発酵の温度管理から酵母の開発まで、日本酒造りは本当に奥深く、難しいものだと改めて認識しました。
杜氏に教わる“自分好みの一杯”
さて、日本酒造りのこだわりを知ったところで、おすすめの日本酒と飲み方を教えてもらいましょう。まずは、杜氏の相川さんから。
「私が好きな日本酒は、『鳳麟純米大吟醸』です」
――国内外で評価の高い、リッチな日本酒ですね。
「フルーティな吟醸香を楽しみつつ、味もふくらみがあり余韻の甘みも感じられます。香味のバランスが良いお酒だと思います」
――どのような飲み方がいいでしょう?
「冷蔵庫で冷やして保管し、少し常温で置いたあと、大体10℃前後くらい(口に含んで、少し冷たく感じる程度)で飲んでみてください。これをお試しいただいたら、人それぞれ自分の適温があるので、次は冷たくしたり、ぬる燗にしたり、好みの温度を楽しんでみてください」
――『鳳麟純米大吟醸』に合うおつまみは何でしょう?
「刺身が王道ですが、旬の干物で脂ののったものを合わせるのもおすすめです」
――京都なら、ぐじ(甘鯛)の干物を入手して合わせてみたくなりますね。
平日の夜に最適の日本酒
――普段はどんなお酒を好んで飲まれますか?
「日本酒以外だとアルコール度数の低いビールやRTDをよく飲むのですが、これらは炭酸が含まれている商品が多く、炭酸がお腹にたまってしまい、食事の際は避けがちでした。そこで最近ハマっているのが、新商品の『月桂冠 アルゴ 日本酒5.0』。アルコール分が5%と低く、かつ非炭酸ですから、シーンを選ばず気軽に楽しめます」
――どのような味わいですか?
「爽やかな酸味と日本酒らしいうま味がしっかり感じられ、通常の日本酒に近い満足感を得られます。甘すぎず、濃すぎず、薄すぎず、食前・食中・食後を選ばない絶妙な味わいの濃さなんです」
――おすすめの飲み方はありますか?
「『アルゴ』の特徴である爽やかな酸味をより良く楽しむために、キンキンに冷やしてグラスで飲むか、あるいは氷を入れてロックで飲むのがおすすめです。日本酒らしいうま味もしっかり感じられるので、ぬる燗にしてもいいですね。酸味がアクセントとなり、一般的な日本酒とは異なる味わいをお楽しみいただけます」
――『アルゴ』に合わせるなら、どんな料理がいいでしょう?
「個人的なおすすめは、鶏の唐揚げです。日本酒と唐揚げは合わせる機会が少ないと思いますが、『アルゴ』は抜群の相性。まず、『アルゴ』のうま味が肉のうま味を引き立てる。そして特徴的な酸味が唐揚げのこってりとした脂っぽさを洗い流し、次の一口が進みます。これはハイボールやビールなどでみられるウォッシュ効果と同じです。『アルゴ』はうま味を引き立てる日本酒らしい特性と、ウォッシュ効果を兼ね備えた、食相性の二刀流日本酒だと言えます」
――それは、すぐにでも飲んでみたいですね。 「日本酒にしてはアルコール度数も低めですから、翌日に響かない、平日の夜に最適な日本酒だと思っています。ぜひお試しください」
伝統的な酒造りから革新的なシステムと研究開発。歴史ある月桂冠イズムをしっかり刷り込まれて、日本酒のイメージはますます良くなりました。やはり、お酒はその国、その地域、その造り手たちの文化ですね。さて、今宵はどの日本酒を飲もうかな~
月桂冠総合研究所
https://www.gekkeikan.co.jp/RD/
取材・文・撮影 インディ藤田