デジタル時代に“あえての手書き” 手帳のプロに聞いた意外な使い方
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もうすぐ4月。新年度を前に、手帳を新しくする方もいるのではないでしょうか。
その一方で「スケジュールは全部アプリで管理している」「手書きもいいけど、しっかり書くのは最初だけ…」という方もいますよね。
今回は「NOLTY」ブランドでおなじみ日本能率協会マネジメントセンターの小林哲也さんに、手帳の基本から意外な使い方まで伺いました。
INDEX
あえての手帳。その魅力とは?
―「ハレの日、アサヒ」編集部内では「スケジュールはアプリで管理している」という人も多かったのですが、貴社のコミュニティサイトをはじめ、手書きにこだわる方も多くいますよね。小林さんが考える“手書きの魅力”とは、どういったところにありますか?
まず「記憶が定着しやすい」というメリットがあります。2021年に発表した弊社と東京大学大学院 酒井研究室、NTTデータ経営研究所との共同研究では、スマートフォンなどの電子機器と比較して、紙の手帳を使った方が、記憶の想起に対する脳活動が定量的に高くなることを発見しました。なんとなく紙に書いた方が覚えるという感覚がある方も多いと思いますが、会社としてもしっかりエビデンスを取っています。
ただ、そういった科学的なことではなく、「物として残る」ということに価値を感じている方も多いですね。1年間毎日使うことで愛着も湧くし、自分の歴史として1冊にまとまっていくことが魅力の1つだと思います。手帳があると振り返ることも気軽にできますしね。
―確かに「この1年頑張っていたな」と振り返るのも良いですよね。
他にも弊社社員にインタビューしたところ、「いつ何をしていたか探しやすい」という声もありました。例えば採用など毎年同じ時期に同じ業務が発生するものは、昨年の動きを参考にすると思うのですが、これが意外と該当ファイルが見つけられない。そんな時手帳を開くと「●月●日にこの業務を始めていたんだな」とパッと分かることもあります。
あと手帳は思いついたことを開いてすぐに書き込める。電話を受けた時のメモなんかもそうですが、書き込むまでのアクションが少ないことも魅力だなと思いますね。
また、スマホやアプリの普及でデジタルツールとアナログツールの併用が一般的になっています。周りと共有したいスケジュールの管理はデジタル上で、忘れたくないタスクの管理や残しておきたいライフログは手帳で、というようにそれぞれ使い分けている方も多いです。
組み合わせは無限大!?手帳の種類と使い方
手帳の種類は、期間とレイアウトで分けられる
―書店で見ると手帳って膨大な種類があるな…と感じるのですが、実際何種類くらいあるのでしょうか?
各企業によって考え方はさまざまなので、一概に何種類とは言えないのですが、弊社では17分類に分けています。大きいカテゴリーは「マンスリー(月間)」「ウィークリー(週間)」「その他」で、その中でもレイアウトによって種類が分かれています。
例えば人気の高いウィークリータイプの中にもいろいろあって、左側のページに日付・右側のページにメモが書き込める「週間レフト」は予定管理とメモのバランスに優れています。また1週間を見開きで8分割のブロックに分けている「週間ブロック」は箇条書きやちょっとした日々の記録が書けるレイアウトで、タスク管理をしたい方におすすめですね。
手帳は「目的」「使用場所」「こだわり」で選ぶ
―たくさん種類があって迷ってしまいそうですね。
そうですよね。そんな時に抑えておきたい3つのポイントがあります。
まず1点目が「目的」。スケジュールやタスクの管理がしたいのか、日々の記録を書き留めたいのかなど、基本ではありますが手帳の使用用途を決めることで、先ほどもお話したレイアウトが決めやすくなると思います。
2点目は「使用場所」。常に持ち歩きたいのか、会社や家に置いておきたいのかなどですね。いつも持ち歩くのであればサイズはある程度小さく薄い方が持ち運びにいいでしょうし、置きっぱなしで使う場合には大きく厚くても問題ありません。
3点目は「こだわり」。大きさや色、ペンホルダーやポケットの有無、メモページの量など譲れないポイントがあるか。2点目までである程度絞れてきたところで、ディテールを固めると選びやすいと思います。
あとは何年か前に作成したものなのですが、店頭でもこういったチャート診断を見かけることがあると思うのでぜひ参考にしてみてください。NOLTY公式Instagramでは「自分に合う手帳が分からない」とメッセージをくれた方に、おすすめの手帳のご紹介もしています。
―小林さんはどういった手帳をお使いなのでしょうか?
私は元々B6サイズの手帳を使っていたのですが、コロナ禍で会社がフリーアドレスになり、それまで机に置きっぱなしで良かったものも持ち歩かないといけなくなってしまいました。必要なものをバッグインバッグにまとめて持ち歩いていたのですが、B6サイズが大きく感じるようになったので、今はひと回り小さい新書サイズを使っています。レイアウトは元々使っていた週間バーチカルタイプです。主に仕事のスケジュールやタスク管理、メモなどを残しています。
スケジュール管理だけじゃない!手帳のいろいろな使い方
習慣づけに役立つ「ガントチャート」
―押さえておきたいポイントの中で「目的」とありましたが、スケジュール管理以外にも使われる方は多いのでしょうか?
そうですね。例えばプロジェクト管理や生産管理など工程管理に用いられる「ガントチャート」という表をご存じでしょうか?この「ガントチャート」は一見使い道が難しいと思われがちですが、“ハビットトラッカー”という使い方がおすすめです。
―初めて聞きました。どのように使うのでしょうか?
ハビットトラッカーとは、ハビット(習慣)+トラッカー(追跡者)を組み合わせた造語で、毎日の習慣が実行できたかどうかを追うチェックリストのことです。習慣化したいことなどを記入して、達成した日に〇や色を付けていきます。できたことが可視化されるので達成感がありますよ。
ちなみに「NOLTY」の最も代表的な手帳である能率手帳は、1949年に当時の日本能率協会が生産現場のコンサルティング活動を行っていたことから、「時間もまた資源である」という考えのもと発行されました。そういった歴史もあり、能率手帳は誕生後70年以上経った今でも月間ページに「ガントチャート」を採用しています。
使い方はあなた次第、献立や推し活の記録にも
―あのページにはそんな使い方があったのですね。これは気軽に始められそうです。他にもおすすめの使い方はありますか?
先ほども話に上がったタスク管理や日記代わりに使われる方は多いですね。あとは食べた物や献立を記録するミールログ、旅行の記録をされている方もいます。
―献立の管理、良いですね!
あらかじめメニューを列挙しておいて、そこから日々何を作るか当てはめていくのでメニューが被りません。これはコミュニティサイトの登録者が投稿してくれたものなのですが、上級者だなあと思います(笑)
このように、手帳は私たちが想定していなかった使い方をしていただけることもあります。最近増えていると感じるのは推し活ですね。新曲のリリース日やテレビの出演情報を書いておいて録画の予定を立てるなど、自分のスケジュールではなく推しのスケジュール管理に手帳を活用していただいているようです。
続けるコツは“空白まで愛する”こと
―手帳はスケジュール管理をするためのものというイメージがありましたが、使い方は自由なんですね。個人的には見せていただいた実用例のように可愛くまとめられず、その内書かなくなる…というのを毎年繰り返しているのですが、続けるコツはありますか?
手帳をお使いいただいている方の中には、「空白が埋められない」というお悩みをお持ちの方もいます。
自分が書きたいことを自分のペースで書いてほしいのですが、どうしても空白が気になってしまうという方には実用例の中にあるように好きなシールやマスキングテープを貼るのもおすすめです。文房具やシールを趣味で集めている方は、そういったツールを使うことをモチベーションにしてみると、手帳を使うこと自体が楽しみになるのかなと思います。
月ごとに色を変えてみたり、仕事とプライベートで色分けをしたり…色使いに迷う方は二色だけにするなど、色味を統一するとすっきり見えますよ。
あとは「そんなに毎日予定がない」「毎日日記を書くのはちょっと大変」という方もいます。そんな方にはフリーログタイプをおすすめしています。日付が書いていないので、好きな日だけ書くことができます。
―日付がない手帳があるなんて…!確かに書ける日だけ書けばいいと思うと気が楽ですし、空白も気になりませんね。
手帳を販売している私たちも使いこなせていない時もあるし、そういった“失敗例”をSNSで公開するととても共感してもらえます(笑)
ただ空白もそんなに避けなくてもいいというか。手帳が好きで長く使い続けられている方は空白をネガティブにとらえるのではなく「この時期は仕事が忙しかったな」と“頑張った証”として、空白ごと愛している人が多い印象です。そういったモチベーションも続ける秘訣かなと思います。
予定を管理するだけではない手帳の使い方、いかがでしたか。新生活に向けて、ぜひお気に入りの1冊を見つけてみてください。