ハレの日、アサヒ 毎日がおいしく楽しく

ハレの日、アサヒ
記事を検索する

記事を検索する

【北欧は、食べて、旅する】第2回 SDGs先進国のアップサイクルな食事情

この記事のキーワード

【北欧は、食べて、旅する】第2回 SDGs先進国のアップサイクルな食事情

SHARE

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • Pinterestで共有
  • LINEで共有
  • このページへのリンクをコピー

北欧を旅して、ガイドブックやエッセイなどを執筆している森百合子と申します。これから、北欧の食と暮らしにまつわるエッセイを全6回でお届けします。

ちなみに北欧とはどの国を指すか、ご存知でしょうか。一般的にはデンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、フィンランドの5カ国が北欧として分類されています。わたしは2005年に初めて訪れて以来、この5カ国を繰り返し旅してきました。こちらの連載でも、5カ国あちこちの町と人、味が登場する予定です。北欧は、食べて、旅する。ぜひ一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

森 百合子(もり ゆりこ)

プロフィール

森 百合子(もり ゆりこ)

北欧ジャーナリスト、エッセイスト。主な著書に『探しものは北欧で』(大和書房)、『日本で楽しむ わたしの北欧365日』(パイ インターナショナル)など。NHK『世界はほしいモノにあふれてる』『趣味どきっ!』などメディア出演も。北欧食器とテキスタイルの店『Sticka スティッカ』も運営している。

衣・食・住でリサイクル

北欧といえば、デザインや福祉が充実した国として紹介されることが多いですが、SDGsへの優れた取り組みでも知られています。旅をしていても衣・食・住にわたってリサイクルやアップサイクルの考え方が浸透していると感じることは多く、今回はアップサイクルをキーワードに、食を取り上げたいと思います。

北欧の町を訪れて楽しいのが、リサイクルショップめぐりです。昔ながらの雑然とした中古品店もあれば、昨今はカフェを併設している店や、セレクトショップのような雰囲気のおしゃれなリサイクルショップも増えています。蚤の市のように、店内の棚やテーブルを一区画ずつ貸し出して、地域の利用者が不用品を販売できる形式の店もあり、家具や照明、絵画やポスター、服、食器など、家にまつわるものからファッション雑貨までさまざまなものが置いてあります。

利用者も老若男女さまざまで、一人暮らしを始める時や結婚して新生活を始めるにあたって、まずのぞく場所といえるくらい暮らしに浸透しています。また若い世代の間では、もはや新しい服を買わずに、古着でおしゃれするのがかっこいい!といった感覚もあるようで、最近では空港のなかにもリサイクルショップが進出していて、驚いたものです。

わたしも古着やビンテージ食器が好きなので、北欧の旅ではリサイクルショップめぐりがかかせません。スウェーデンの第3の町、マルメで友人と一緒にリサイクルショップ巡りをしていた時のこと。店内の一角には大きなソファとローテーブルが置かれて、コーヒーやジュース、アイスなども販売していました。ちょうど暑い日だったこともあり、カラフルなポスターが目を引いたアイスキャンディーを試してみることに。

スウェーデンのアイスキャンディー

選んだのは、サンシャインと名づけられたオレンジ色のアイスキャンディー。味の説明を見ると、シーバックソーン、オレンジ、エルダーフラワーが入っていると書かれています。シーバックソーンとはグミ科の植物の実で、豊富な栄養素を含むスーパーフードとして昨今注目されている果実。独特の渋みがあるので、そのままでは食べにくいのですが、他のフルーツと合わせたり、凍らせてはちみつをかけて食べるとおいしいんです。北欧の人々にとっては貴重なビタミン源でもあるんですよね。

一方のエルダーフラワーとは、日本語で西洋ニワトコとよばれる植物。初夏から夏にかけて咲くエルダーフラワーの花の部分を使って濃縮ジュースをつくり、水や炭酸水で割っていただくのが北欧の習わし。紅茶に入れてもおいしいのです。

スウェーデンのアイスキャンディー「サンシャイン」

シーバックソーンにエルダーフラワーとは、なんと北欧的な組み合わせ! と選んだアイスキャンディーは濃厚な味で、果実の風味がたっぷり。食べ終えると、バーにメッセージがありました。アイスキャンディー1本ごとにミツバチ保護活動に寄付すると書いてあります。気になってあとで調べてみたところ、可能な限りサステナブルにおいしいアイスキャンディーを作りたいとの思いから生まれたブランドで、廃棄予定だった果物と地元の農産物を組み合わせて作っていることがわかりました。ビンテージマーケットや夏のフードフェスティバルで販売を始めたところ話題を呼び、サステナブルな企業や団体を評価する賞も獲得したそうです。リサイクルショップにまさにぴったりのアイスキャンディーだったんですね。

スウェーデンのリサイクルショップで販売されていたカラフルなジュース「RSCUED」

そのリサイクルショップではカラフルなジュース『RSCUED』も売っていました。こちらも気になり別の日に試してみたのですが、やはり廃棄予定の果物や野菜を”レスキュー”して作るジュースなのでした。商品サイトをのぞいてみると、ジュースのほかレモネードやスムージー、さらに北欧名物の冬に飲むりんごのホットドリンクもありました。北欧ではクリスマス時期にはシナモンやカルダモンなどのスパイスで香り付けをしたホットワインを飲むのですが、アルコールを飲まない人向けに、同様のスパイスを効かせた温かいりんごシュースも親しまれているのです。

スウェーデンのスーパーマーケットで見つけたショットドリンク「RSCUED」

『RSCUED』の商品は、スーパーマーケットでも見かけたので、ほかの味も試してみました。わたしが気に入ったのは、生姜や山椒を効かせたショットドリンク。ショットといえば、アクアビットやウォッカなど強いお酒をイメージするところですが、こちらはピリリと辛味のきいたフルーツのショット。旅の疲れがリフレッシュするような味わいでした。

廃棄食材で、ランチを提供

マルメの町には、『SPILL(スウェーデン語で廃棄物やゴミの意味)』と名づけられたレストランもあります。その名のとおり、地元のスーパーマーケットや食材店から廃棄される食品を活用して、ランチを提供しているのです。メニューは肉もしくは魚を使った料理と、ベジタリアン向け料理の2種類だけ。その日の朝に手に入る食材で献立を決めていくので、当日になるまでメニューはわかりません。

『SPILL(スウェーデン語で廃棄物やゴミの意味)』と名づけられたスウェーデンのレストランのランチ

わたしが訪れた日は「ヴァレンベリ家のハンバーグ」と呼ばれる、スウェーデンの大富豪の名前に由来するハンバーグが提供されていました。コケモモのジャムと、グリーンピースをたっぷりと添えていただく伝統的な料理のひとつです。廃棄食材を使ったレストランと聞いて、てっきり創作料理が出てくると思っていたので驚きましたが、牛のひき肉を使ったジューシーなハンバーグはとてもおいしかったです。話を聞くと、シェフのエリックさんはミシュランの星を獲得したレストランで長年、働いていたとのこと。日々、大量に廃棄される食材を目にするうち、食業界が抱えるフードロスの問題をなんとかしたいと思うようになり、『SPILL』を立ち上げたそうです。

ちなみにベジタリアン用のプレートでは、ひき肉の代わりにひよこ豆を使ったハンバーグが出されていました。スウェーデンをはじめ北欧の国々では、環境のためにベジタリアン食を選ぶ人が増えています。とくに若い世代ではヴィーガン、ベジタリアン、ペスカタリアン(乳製品や魚は食べる)が多く、町中のレストランやカフェではたいていベジタリアンやヴィーガン向けメニューが用意されています。北欧の伝統料理というとミートボールや豚肉のロースト、ラム肉を使った料理など、肉肉しい料理が多いのですが、そうしたメニューも豆やオーツ麦を材料としたプラントミート(代替肉)を使って、ベジタリアン向けに提供されています。北欧を旅していると、ベジタリアンメニューの豊富さに驚かされ、肉を完全に断つことはできなくても食べる回数は減らしていけそうだなとか、おいしさを我慢せずに環境のための選択ができるんだな、と感心します。

モダンノルディック ✕ アップサイクル

世界一のレストランに繰り返し選ばれたデンマークの『NOMA』を筆頭に、モダンノルディックと呼ばれる新しい北欧料理が注目されるようになりました。地元の食材を使い、伝統の味を再評価して現代風にアレンジを加えたモダンノルディックを掲げるレストランが増え、なかにはミシュランの星を獲得した店もあります。

そんなモダンノルディックの世界にも、アップサイクルな味が進出しています。それはシードル(またはサイダー)と呼ばれるりんごのお酒。シードルというとフランス産のイメージが強いですが、この10年ほどで北欧生まれの本格シードルが増えているのです。

北欧の家の庭でよく見かけるりんごの木

北欧の家を訪れると、たいてい庭にりんごの木があります。晩夏から秋にかけての収穫時期には、お菓子づくりに使われるほか、サラダのトッピングや肉のソースなどさまざまに活用され、新聞や雑誌ではりんごを使ったレシピの提案も盛んになります。それでも庭には使い切れないりんごがたくさん落ちたまま放置され、りんご農園では多くのりんごが廃棄されてしまう⋯⋯そこに目をつけたのが、新しいシードルの作り手たちです。

『Æblerov(デンマーク語でリンゴ泥棒の意味)』の名をもつシードル醸造所もそのひとつ。実家や友人宅の庭で余っていたりんごを集めてシードル作りをしたのがはじまりで、その名前には「ゴミや廃棄物から使えるものを盗んで、おいしい酒を作る」そんな思いが込められています。もともと趣味の延長のようにはじまったシードル作りはすぐに評判となり、NOMAやミシュランレストランにも卸すほどに。わたしも飲んだことがあるのですが、これが本当においしくて食事にも合うのです。

北欧ではもともと、りんごを使ったお酒もありましたが、かつては甘いジュースのような味が主流でした。新世代シードルの作り手たちが口を揃えて言うのは、寒い北の国で育つ酸味の強いりんごは、ワインづくりの葡萄のように土地の個性を持っているということ。酸味を活かした、甘み控えめのきりっとしたドライな味わいは、ナチュールワインやクラフトビールと並んで、レストランやバーで好まれるようになりました。

生産量が増えてからは、地元の農園と契約して、売り物にならない不格好なりんごを主に使ってシードル作りをしてきた『Æblerov』。りんごの収穫量が減った年には、シードルを製造する上で出るりんごの果肉を再利用して新しい商品を作るなど、工夫をこらしています。

それにしても『RSCUED』『SPILL』『Æblerov』と、みなネーミングのセンスがいいですよね。商品やサービスの取り組みにつながる、「おや?」と手に取りたくなる名前。店や商品の背景に興味を持たせ、そこからフードロス問題への関心を高めているように思えます。

北欧らしいアップサイクルなおやつ「シナモンロールのラスク」

さて最後にもうひとつ、北欧らしいアップサイクルなおやつをご紹介しましょう。フィンランド北極圏の町でカフェを訪れた時のことです。レジ横でメレンゲやラスクなど焼き菓子を売っていたのですが、よく見てみるとラスクの断面に見覚えが⋯⋯なんと、シナモンロールのラスクなのでした。固くなったパンを無駄にせずおいしく食べるために生み出されたラスクですが、さすがシナモンロールの国! 生産量も多いだけに、こうしてアップサイクルされるんだなあと感動したものです。

【北欧は、食べて、旅する】第2回 SDGs先進国のアップサイクルな食事情

食べる

【北欧は、食べて、旅する】第3回 北欧のキッチンをのぞく

【北欧は、食べて、旅する】第2回 SDGs先進国のアップサイクルな食事情

食べる

【北欧は、食べて、旅する】第1回 忘れられない、コーヒータイム

SHARE

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • Pinterestで共有
  • LINEで共有
  • このページへのリンクをコピー

注目PICKUP

 PICKUP PICKUP PICKUP PICKUP PICKUP PICKUP PICKUP

 PICKUP PICKUP PICKUP PICKUP PICKUP PICKUP PICKUP

【アサヒ・nishikawa対談】眠りと食で育む、子どもの可能性

朝活好き編集部おすすめ!浅草でモーニングを楽しめるスポット3選

次の休み何する?【1】浅草おでかけマップ

【北欧は、食べて、旅する】第1回 忘れられない、コーヒータイム

【北欧は、食べて、旅する】第1回 忘れられない、コーヒータイム

【北欧は、食べて、旅する】第2回 SDGs先進国のアップサイクルな食事情

【北欧は、食べて、旅する】第2回 SDGs先進国のアップサイクルな食事情