大人の苦うま革命!「アサヒ ザ・ビタリスト」開発の裏側
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アサヒビールの2025年新商品、「アサヒ ザ・ビタリスト」は、発売から4か月を迎え、ビールファンを中心に爆発的に話題を集めています。これまで敬遠されがちだった“苦味”をあえて主役に据えた挑戦的な一本。その奥行きのある味わいの裏には、開発チームの熱意とビール好きの声に真摯に向き合う姿勢がありました。
INDEX
2025年登場、アサヒの新しいビール「ザ・ビタリスト」の魅力とは
「苦いけどスッキリしている」—ビールの常識をくつがえすような新しい味わいが話題の「アサヒ ザ・ビタリスト」。その最大の特徴は、“苦味”と“キレ”を高いレベルで両立させた、まさに新感覚のビールであることです。これまでの苦くて飲みにくいビールとは一線を画し、ビールの苦味が好きな層だけでなく、苦味が苦手な人にもぜひ試してもらいたい、アサヒビールの本気の新商品です。
なぜアサヒはこのビールに挑む必要があったのか?そして市場はどう受け止めているのか。開発の舞台裏を、ブランドマネージャーの山田佑にインタビューしました。
なぜ今、“苦味”のビールなのか?誕生の背景に迫る
―このビールが誕生した背景を教えてください。
ビール市場全体を見渡すと、今は“飲みやすさ重視”の傾向が強く、すっきり軽やかな味わいのビールが数多く展開されています。各社とも、いわゆる「ビール離れ」への対応として、ビールをあまり飲まない人や、苦手な人にも親しみやすいような、敷居を下げた商品や世界観づくりに力を入れているのが現状です。
一方で私たちが注目したのは、日常的にビールを楽しんでくださっているミドル〜ヘビーユーザーの存在です。実際に、ビール全体の消費量の約7割はこの層によって支えられています。日常的にビールを楽しむ方は、「自分の好みに合うビールを、こだわりを持って選びたい」と考える傾向が強く、銘柄や味わいを比べながら楽しむ“バラエティニーズ”も持っています。そこには、“自分はビールが好きだ”という自負もあると感じています。
そうした方々が「理想の味」としてあげたのが“苦味”でした。これまでは敬遠されがちな印象もありましたが、調査ではミドル〜ヘビー層の約半数が「苦味こそがビールの魅力」と答えています。そこで、苦味に真正面から取り組み、しっかりとおいしい苦味を表現することで、ビール好きに響く一本をつくろうと考えました。
また、アサヒビールとしては、「スーパードライ」や「マルエフ」とは違った新しい価値のある商品を加えることで、定番ビールの幹をより太くする狙いもありました。
―開発のきっかけを教えてください。
研究所のある開発者の発案がきっかけでした。前職でクラフトビールの醸造経験のある小山さんという方なんですが、彼が「自分が飲みたいビール」をつくってみたことが始まりだったのです。最初はホップの香りや苦味など、今までのアサヒとは違った個性があるビールだったので驚きがありました。アサヒといえば、スッキリしていてごくごく飲めるキレのある味わい、というイメージがあるので、「苦みを前面に出す」という方向性に新しさを感じました。それでも次第に、「なんか面白いよね」というムードが社内に広がって、開発が一気に加速しました。
試して、聴いて、磨き上げるーアサヒの開発力の真骨頂
―最初に「ザ・ビタリスト」を世に出したのは、どのような形だったのでしょうか?また、その反響はいかがでしたか?
2023年3月に、アサヒビールのD2Cサイト「ASAHI Happy Project」(*) で数量限定のテスト販売を行ったのが最初です。1700セットを用意したところ、わずか3週間程度で完売しました。これまでにもいくつかのテスト販売を経験していますが、ビールとしては過去最速の売れ行きで、「これはいけるぞ」という強い手応えを感じました。
開発段階で設定していた「ザ・ビタリスト」を飲みそうな実在の人物像は、「酸いも甘いも、そして苦味も経験してきた45歳、会社員男性」でした。自分のこだわりに自信を持ち、「この苦味、わかるようになってきたな、俺も」とつぶやきたくなるようなビール好き。実際に、社内にもイメージにぴったり重なる方がいました。
商品としては、力強さを感じるパッケージとしっかりした苦味のある味わいだったので、当初はこのターゲットのような“こだわり派”の男性を中心に響くのではと予想していました。ところがふたを開けてみると、意外にも20〜30代の若い方や女性の購入も多く、「こういうビールが飲みたかった」といった声が数多く寄せられたんです。苦味にこだわったビールへのニーズが、世代や性別を超えて広がっていることを実感する結果となりました。
*「ASAHI Happy Project」はオンラインの販売サイトで、2025年3月末に全面リニューアルをしました。現在は「アサヒ空想開発局」へ改称し、より一層ワクワクする商品をお届けしてまいります。
―アサヒには、「まずはやってみよう!」という文化があるように感じましたが。
そうですね。「ASAHI Happy Project」のような実験的な場を活用して、小さくテストを行い、お客様の反応を見ながら改良を重ねていくアジャイルの開発の仕組みがアサヒにはあります。現在の松山社長がマーケティング本部長に就任して以来、意識や組織体制の改革が進み、「もっとチャレンジングなことに挑むべきだ」という風土が強まりました。ただし、やみくもに挑戦して失敗するのではなく、「賢く・早く・安く失敗し、そこから学ぶ」という柔軟性とスピード感が育まれてきたと感じています。
―テスト販売でお客さまの声を受けて、商品にどのような変化や調整を加えていきましたか?
実はテスト販売した時は、もっと華やかでフルーティーな香りのビールだったんです。「最高クラスの苦味と最高クラスの香り」を掲げていて、どちらも強く立っていました。
ところが、お客さまへのインタビューで「ビタリストという名前から、もっと苦味がしっかり感じられると思っていた」という声があり、ハッとさせられました。そこから香りの方向性を見直し、使用するホップの種類も変えて、現在は「タラス」と「ヘルスブルッカー」という2種類のホップを中心に、グラッシーで柑橘の皮を思わせるような苦味を引き立てる香りに整えています。
これまで市場にあった“苦いビール”は、苦みが強く重たいために「飲みにくい」と感じられがちでした。でも、そこにアサヒらしいキレを掛け合わせることができれば、十分に独自性のある商品になると考えたんです。実際、後味には「スーパードライ」にも使われている、アサヒが長年培ってきた「318号酵母」を活用し、スッと消えるキレを実現しています。
開発中の途中で意見が割れたり、迷いが生じた時は、必ず「『ザ・ビタリスト』というブランドの世界観に立ち戻る」こと、そして「お客さまの声に真摯に耳を傾ける」という徹底した顧客視点を大切にしていました。
理想を形にするために越えた、いくつものハードル
―苦労を感じたのはどのような時でしたか?
特に大変だったのがホップの調達です。「ザ・ビタリスト」に使っている「タラス」というホップは稀少な品種で、生産量が限られています。そのため、2〜3年先を見越して農家と契約し、作付けをお願いする必要があります。つまり、販売量の予測がほんの少しずれただけで、過剰在庫になったり、逆に原料が足りなくなったり、大きなリスクを抱えることになるんです。調達部門や生産部門の方と何度もコミュニケーションをし、原材料調達や製品廃棄ロスなどの難しい課題も超えていくことができました。
非常に難しい挑戦でしたが、「これは間違いなく面白い商品になる」と確信していましたし、テスト販売の結果やお客様からのポジティブな声が、その思いを裏付けてくれました。今振り返ってみると、まさに“未来を信じて種をまく”ような挑戦だったと思います。
―苦さとの葛藤、“苦い”をどう魅せるかにも苦労されたとか?
テストマーケティングでの反応は好調でしたが、「本当に苦いビールが売れるのか?」という懐疑的な声は社内にも根強く残っていました。黒を基調にしたパッケージや尖ったコンセプトは、魅力的である一方で、一部の人には“ニッチ”で敷居が高い印象を与えかねませんでした。
そこで私たちは、「苦味」という個性をどうすればより多くの人にポジティブに受け取ってもらえるかを改めて検討しました。“苦味”をただの特徴として押し出すのではなく、ビールのうまさを構成する一つの重要な要素であることに焦点を当て、あくまでもビールのうまさを伝える方向にシフトしました。
そのうえで、苦味・キレ・香りが三位一体となった「おいしさ」の魅力を届けることを軸に、広告・CM・販促も全て一本筋の通った表現にしました。どうすれば“尖った個性”を“惹かれる個性”に変えられるかーーそのバランスを取るために、チーム全員で悩み抜きました。
“共感”から広がる、「ザ・ビタリスト」のこれから
―発売後にお客様から届いた声を教えてください
実際に「ザ・ビタリスト」を飲んだお客様からは、「この苦味を待っていた」といった声に加え、「飲みやすいビールが主流の時代に、こんな尖ったビールを出すアサヒの企業の姿勢にグッときた」といった声が届いています。それを見て、「ビール好きの人はそこまで考えてくれているのかと。チャレンジングな姿勢を貫いてきたからこそ、そういうところに共感してもらえるのは嬉しいです。それに、グッときたと言われているから、誉めてもらえているんでしょうね(笑)。
―一方で、「苦すぎて自分には合わない」という反応もあるそうですが?
もちろん多くの方に試していただきたいですが、想定内の反応です。むしろ開発チームが目指したのは、万人受けではなく、“苦味を愛する人に響く一本”。「苦味がしっかりあるのに行き過ぎていない」「広告やパッケージを含めて世界観が大人っぽくてかっこいい」と、味だけでなくブランド全体に対する共感の声が集まっています。近年のビールが“すっきり飲みやすい”路線に偏る中で、真逆をいくようなチャレンジに共鳴する声も多く、ビール好きとの強い絆を感じさせてくれる反応となっています。
―今話せる範囲で今後の展望を教えてください。
私たちは「苦い、苦い」と自分たちが言い過ぎないように注意していたのですが、実は初期のCMは「苦い」がやや強調されすぎていました。そんななか、お客様からは「苦味を想像して飲んだけど、爽快感も感じるのが『ザ・ビタリスト』の魅力だ」といった声が届きました。お客様のリアルな体験からヒントを得て、7月上旬にCMの表現を一部改定しました。
苦みと爽快さの両面を伝えられるコミュニケーションをすることで、「ちょっと気になってる」「苦そうで自分向きではないかも」と、様子見されている方にも、手に取ってもらえるきっかけを作っていきたいと考えています。そして、商品の世界観を通じて、自分自身を表現できる。そんなブランドとして、より広く愛されていきたいですね。
まだ構想段階ですが、ワクワクして思わず手に取りたくなるような企画を考えているので、楽しみに待っていてください!
―最後に読者の皆さんへ一言お願いします。
見た目が黒と黄金のパッケージなので、特別な日に飲むビールかなと思われる方もいるかもしれませんが、むしろ日常に取り入れてほしい一本です。とにかくお肉との相性が最高!塩コショウを効かせたステーキや、スパイスで味付けしたチキンとの組み合わせは、ぜひ一度試していただきたいです。
そして、商品名の「ザ・ビタリスト」ですが、苦味の”bitter”と、人を表す語尾の”-ist”を掛け合わせて、“苦味を愛する大人”という敬愛の念を込めてこの名前にしました。「ザ・ビタリスト」という名前が一つの肩書きのような言葉として広まって、自称するには恥ずかしいかもしれませんが、“ビタリスト”たちがどんどん増えてほしいですね!
一緒に開発を進めた社員の方からもコメントをもらいました。
アサヒビール 原材料部 福井純一さん (ホップの調達を担当)
商品の発売を見届けて、「おいしいものができたな」と心から喜びを感じました。ホップの調達で苦労していた私の姿を見ていた同僚からは、「本当に良かった」と声をかけてもらい、実際に飲んでくれた友人からは、「”苦味“が特徴的でおいしいビールだった」と感想をもらいました。その瞬間、「ザ・ビタリスト」の開発に携われて本当に良かったと、努力が報われたことを実感しました。
アサヒビール 新顧客創造研究所 プロダクトイノベーション部 小山史明さん (発案者)
私の提案から商品化できる機会をいただけたことはとても嬉しく、初めて商品開発に携わるということもあり、身の引き締まる思いでした。社内でビールの開発記号をつけるのですが、「スーパードライ」、「マルエフ」に続く、アサヒの3本目の柱になってほしいーそんな願いを込めて「ザ・ビタリスト」には、”TP“(Third Pillar=第3の柱)”という記号をつけました。開発チーム一丸となって、その実現に向けて全力で挑んできました。
text&photos 「ハレの日、アサヒ」編集部

