【北欧は、食べて、旅する】第4回 北欧のクリスマスを味わう
この記事のキーワード
SHARE
北欧を旅して、ガイドブックやエッセイなどを執筆している森百合子と申します。これから、北欧の食と暮らしにまつわるエッセイを全6回でお届けします。
ちなみに北欧とはどの国を指すか、ご存知でしょうか。一般的にはデンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、フィンランドの5カ国が北欧として分類されています。わたしは2005年に初めて訪れて以来、この5カ国を繰り返し旅してきました。こちらの連載でも、5カ国あちこちの町と人、味が登場する予定です。北欧は、食べて、旅する。ぜひ一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
プロフィール
森 百合子(もり ゆりこ)
北欧ジャーナリスト、エッセイスト。主な著書に『探しものは北欧で』(大和書房)、『日本で楽しむ わたしの北欧365日』(パイ インターナショナル)など。NHK『世界はほしいモノにあふれてる』『趣味どきっ!』などメディア出演も。北欧食器とテキスタイルの店『Sticka スティッカ』も運営している。
INDEX
クリスマスシーズンのはじまり
北欧といえば、クリスマスの本場。今回はクリスマスの祝い方や、クリスマスならではのごちそうについてご紹介します。
北欧の人々にとってクリスマスは一年でもっとも大きなイベントであり、日本でのお正月のような存在です。クリスマスシーズンが本格的なはじまりを告げるのは、約4週間前から。4本のろうそくを立てたアドベントキャンドルに、日曜日ごとに火を灯してクリスマスまでのカウントダウンがはじまるのです。町へ出かけると、大きな通りや建物はクリスマスのイルミネーションで輝き、週末には各地でクリスマスマーケットも開催されます。
クリスマスマーケットでは、ツリーや窓辺に飾るオーナメントや工芸品、またソーセージやローストアーモンド、レトロなキャンディといったクリスマスならではの食材が販売されています。ホットワインの屋台もこの時期の名物で、シナモンやクローブ、カルダモンなどのスパイスで風味づけされた北欧式ホットワインを飲むと、クリスマス気分がますます高まります。ホットワインには、飲むときにさらにアーモンドやレーズンを足していただくのが北欧流。
この時期に町を歩くと、広場でクリスマスツリーを売っているのも見かけます。北欧では生の木を飾るのが一般的で、まだ飾りつけされていないクリスマスツリーが広場にずらりと並んだ景色は壮観です。いい枝ぶりの木から売れてしまうため、シーズンがはじまるとなるべく早く見に行くのが鉄則なのだとか。
家でもショップでも、窓辺を飾るのが好きな北欧の人々ですが、12月にはクリスマス飾りで目を楽しませてくれます。もっともよく見かけるのは、星型の照明。住宅街を歩けば、窓という窓に光る星が飾られているんです。そして北欧らしいクリスマスモチーフといえば、赤い帽子をかぶった小さな妖精たち。サンタクロースのお手伝いをする妖精で、フィンランドではトントゥ、スウェーデンではトムテ、デンマークやノルウェーではニッセと呼ばれています。ノルウェーで、12月にスーパーマーケットを訪れたら、牛乳パックにも妖精たちが描かれていました。
ああ、これも北欧ではクリスマスの柄なんだと驚いたのは、ハート型のモチーフ。デンマークではユールヤータと呼ばれる、市松模様のクリスマス飾りがかかせません。折り紙で作ることもできる気軽な飾りであり、ツリーや扉に飾られています。わたしもひとつ、友人が手作りした小さなユールヤータを持っていまして、わが家のツリーに飾っています。
北欧といえば、サンタクロースの故郷としても知られています。フィンランドでは北極圏のコルヴァトゥントゥリという山に住んでいるといわれ、デンマークではグリーンランドに暮らしているといわれています。面白いのはアイスランドで、なんとサンタクロースが13人もいるんです。12月12日になると、ひとりずつ山から降りてきて、クリスマス当日の25日になると全員が揃うというわけ。そして翌日からまた、ひとりずつ山へ戻っていくのです。アイスランドの首都レイキャビクを歩いていたら、窓辺に13人のサンタクロースが飾られているのを見かけました。
アイスランドには、もうひとつクリスマスの名物があります。それはユールキャットと呼ばれるクリスマスの猫。怖い魔女グリラに飼われている猫で、するどい爪を持ち、クリスマスまでに新しい服を準備できなかった人を食べてしまうと言い伝えられています。レイキャビクの町中では、大きなイルミネーションで輝くユールキャットに遭遇しました。
クリスマスのごちそうは?
さて、それではクリスマスのメイン料理をご紹介していきましょう。北欧各国で少しずつ違いはあるのですが、どの国でも親しまれているのが豚肉料理。スウェーデンでは「ユールシンカ」、フィンランドでは「ヨウルキンック」と呼ばれる豚肉のハムがクリスマスのメイン料理です。大きなハム肉の塊に甘みのあるマスタードをたっぷりと塗ってオーブンで焼き、スライスしていただくのですが、この甘いマスタード味がくせになるおいしさ。
デンマークでは「フレスケスタイ」と呼ばれる、豚バラ肉のローストがクリスマスの定番です。皮付きバラ肉の表面に細く切り込みを入れ、クローブを刺して、皮の部分がカリカリになるまでじっくりと焼き上げた料理で、デンマークの友人たちに言わせると、このカリカリになった皮部分がたまらないのだとか。キャラメリゼした小粒のじゃがいもと、甘く煮た紫キャベツと一緒に食べるのがお約束で、わたしはこの組み合わせが大好き。フレスケスタイは、伝統料理のレストランなどでクリスマス時期以外にも食べることができるので、見つけるとつい注文してしまうメニューです。
ノルウェーでは「ユールリッべ」と呼ばれる豚肉のローストが親しまれているほか、骨付きの羊肉を積み上げて焼いた「ピンネショット」という料理もおなじみ。また「ルーテフィスク」と呼ばれる名物の魚料理もあります。ルーテフィスクは、干し鱈を灰汁に漬けて戻してから調理するユニークな料理で、ぷるんとした独特の食感の魚に溶かしバターをかけていただきます。つけあわせには甘い豆のペーストや、レフセとよばれる薄いパンケーキが用意され、手の込んだ一品はいかにも特別な日の料理といった感じで、人気のレストランではシーズンになるとあっという間に予約で売り切れてしまうのだとか。アイスランドでは、デンマークのフレスケスタイに似た「ハンボルガラフリッグル」と呼ばれるローストした豚肉料理を食べるほか、「ハンギキョット」というスモークした羊肉もクリスマスの定番です。
この時期は、町歩きの途中でクリスマスらしい菓子パンやおやつを食べるのも楽しみ。「ルッセカット」と呼ばれるスウェーデンの菓子パンは、サフランを使った黄色い生地が特徴です。スウェーデンではクリスマスに先駆けて、12月13日に光の女神ルシアを祝う「ルシア祭」が催されます。その年のルシアに選ばれた子どもが、このルッセカットを配るのがならわしで、黄色い生地は光をイメージしたものといわれています。確かに太陽がなかなかのぼらない冬に北欧の町を歩くと、窓辺を照らす灯りやルッセカットの明るい黄色にも気持ちがほっとします。
デンマークには「エーブレスキヴァ」とよばれる、クリスマスのおやつがあります。見た目はまるでたこ焼き!ですが、パンケーキのような生地で、粉砂糖とジャムをつけていただきます。
そして北欧どの国でもクリスマスにかかせないお菓子といえば、ジンジャークッキー。コーヒーやホットワインと一緒に食べるほか、オーナメントにしたり家型に組み立てたりと、デコレーションとしても活用され、12月にカフェやベーカリーへ行くと、ハートやブタなどクリスマスのモチーフ型で焼かれたジンジャークッキーが並んでいます。
友人の家で過ごしたイブの夜
クリスマスは家族で過ごす日です。クリスマスイブから翌日26日までは祝日とされ、町のショップやレストランはもちろんのこと、一部のバスやトラムなど交通機関まで止まってしまいます。ですから、クリスマス時期に北欧を旅をする際には気をつけてくださいね! クリスマスの本場は24日、クリスマスイブの夜。遠方に暮らす家族もみな集まってごちそうを食べ、ツリーの下に並べられたプレゼントを開けていきます。そう、北欧ではクリスマスプレゼントも25日を待たずに開けてしまうんです。
デンマークの友人宅でクリスマスを過ごしたときのこと。お腹いっぱいにごちそうを食べた後、デザートとして出てきたのが、牛乳粥です。これも北欧クリスマスの定番の味で、デンマークではチェリーソースをかけていただきます。お米を牛乳で炊いて、さらにチェリーソースをかけるとは日本人にはびっくりの組み合わせですが、これがおいしいのです。牛乳粥のなかにはアーモンドが一粒入っていて、それが当たった人はプレゼントがもらえるというお楽しみもあり、わくわくしながら食べたのですが⋯⋯なかなかアーモンドが出てこない。「もうお腹に入らないよ〜」と目を白黒させながら食べていたところ、めでたくアーモンドを当てることができ、かわいらしいニッセのチャームをもらいました。
食後はクリスマスツリーを囲んで歌って踊って、ツリーの下にたくさん並べられたプレゼントを開けていき⋯⋯と、イブの夜は長くいつまでも続いたのですが、もうひとつ驚いたのが、ツリーに本物のキャンドルを灯し、さらには花火までつけていたこと! 北欧のクリスマスは、日本のお正月のようなものと冒頭に書きましたが、家族で集って、この日ばかりは無礼講といった感じで過ごすのもどこか似ています。そして翌日のクリスマス当日にも、イブの夜に残ったクリスマス料理をいただきます。こんなところも、三が日は料理をせずにおせちを食べる日本のようですよね。

