生きるを愉しむウイスキー【1】マーケターと見つける新たな愉しみ方
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創業90周年を迎えたニッカウヰスキーは新たなコミュニケーション・コンセプト“生きるを愉しむウイスキー”を掲げています。ウイスキーが持つ豊かな個性や多様な楽しみ方を通して、人生そのものを愉しんでほしいという思いを込めています。この連載では、ウイスキーの愉しみ方について、ウイスキーとともに人生を歩むプロたちが全4回にわたって語ります。連載を通してあなたのウイスキーの愉しみ方を見つけませんか?
第1回は、ニッカウヰスキーのマーケティングを11年間担当し続け、今でも愉しく飽きないと語る坂本英一に、日本のウイスキーが世界中で愛されている理由やニッカウヰスキーの目指す姿について聞きました。
INDEX
日本のウイスキーはなぜ人気?
日本では、15年ほど前から流行り出したハイボールや、”日本のウイスキーの父”と呼ばれる竹鶴政孝とその妻リタをモデルにした2014年放映のテレビドラマをきっかけに、ウイスキーブームが起こり始めました。その後、クラフトディスティラリーが増え、さらに活気を得るようになりました。また、近年はプレミアムウイスキー※1がよく伸びていますが、そのきっかけとなったのがコロナ禍です。コロナ禍以前は、バーなどでプレミアムウイスキーを飲む機会がありましたが、それが失われてしまったため、自宅でプレミアムウイスキーを飲む方が増え、今でも伸び続けています。
海外においても日本のウイスキーはとても人気で、2010年比で5倍近く伸びています。インターナショナル・スピリッツ・チャレンジや、ワールド・ウイスキー・アワードなど世界的なウイスキーコンペティションがある中で、日本のウイスキーが世界最高賞を受賞し、評価されるようになってきました。日本のウイスキーは繊細さやバランスの良さ、それを支えるブレンド技術などがよく評価されていると思います。
※1 日本では平均店頭価格 税別2,000円(700ml)以上のウイスキー
創業者から受け継がれているチャレンジ精神と柔軟な発想によるものづくり
創業者の竹鶴政孝は単身スコットランドに渡り、ウイスキーづくりを学びました。帰国した政孝は、スコットランドのウイスキーづくりに最も近い環境を探し求め、北海道の余市に蒸溜所をつくります。東京や大阪といった大消費地から遠く、商売においては便利とは言えない場所でしたが、「一人でも多くの人に、本物のウイスキーを飲んでもらいたい」という思いでさまざまな困難を乗り越えておいしいウイスキーづくりに挑戦してきました。その挑戦心が今でもニッカウヰスキーには受け継がれています。
例えば「ブラックニッカ クリア」。ウイスキー独特のスモーキーさを生み出すピートというものをあえて使わないノンピートモルトを使用した、すごく斬新なチャレンジをしている商品です。今ではその味わいもお客さまから支持され、愛されています。
「NIKKA DISCOVERYシリーズ」という2年前に発売した限定商品は、ウイスキーづくりにおいてあまり注目をしてこなかった酵母に光を当て、その可能性を追求した商品です。
ニッカウヰスキーは今年で創業90周年を迎えましたが、このようにニッカウヰスキーは前例や固定観念に捉われない柔軟な思考でものづくりに挑戦しているところが強みだと思います。ウイスキーのおいしさ、その多様な愉しみ方をお客さまに提供するためにチャレンジし続けているところは、政孝から今なお受け継がれているところです。
世界のバーテンダーがユニークでイノベーティブと評するニッカウヰスキー
海外は日本と違って飲み方が多様です。食前酒・食中酒・食後酒があり、人それぞれ自分に合わせて自分好みのお酒を愉しむ文化があります。ウイスキーは、ストレートやロック・水割りなどに加えカクテルでも楽しめるので、まさに多様な飲み方ができるお酒です。多様に変化できるウイスキーは海外の多様な飲酒文化にぴったりなんです。特にウイスキーカクテルは欧米に限らず浸透していて、ニッカの商品はカクテル素材として世界中のバーテンダーからとても高い評価を受けています。代表的なもので言うと「フロム・ザ・バレル」「ニッカ カフェグレーン」などがあります。
「フロム・ザ・バレル」は樽から出た瞬間の力強い味わいをイメージして作られたウイスキーです。カクテルはさまざまなものを混ぜますが、「フロム・ザ・バレル」は個性が失われない、割り負けしないウイスキーと言われています。海外でニッカウヰスキーが飛躍的に認知されたのは、「フロム・ザ・バレル」が牽引したところがあります。
「ニッカ カフェグレーン」は非効率と言われているカフェ式連続式蒸溜機を使用することで、脇役となることの多いグレーンウイスキーにおいても、原料由来の豊かな味わいとおいしさを実現しています。カフェ式連続式蒸溜機は世界的にも希少なので、ユニークな味、そしてカクテル素材としてとても面白いと言われています。
このように政孝から受け継ぐものづくりに対する精神性やストーリーが評価され、ニッカウヰスキーはユニークでイノベーティブと言われるようになりました。
竹鶴政孝が残したメッセージ「生きるを愉しむために飲んでほしい」
竹鶴政孝がスコットランドから帰国した当時の日本は、原酒を一滴も使わず、アルコールに色や香りを付けたイミテーションウイスキーが主流でした。おいしさは二の次で、安さが重視された時代です。そのような時代にあっても、本物のウイスキーのおいしさを知ってもらうために品質に妥協をすることなく挑戦を続けました。
また、ウイスキーづくりだけではなく、働き方やイギリス文化も学んで帰ってきた政孝は、経営スタイルや価値観も日本の慣習に囚われない柔軟なものでした。
例えば夕方には仕事を終わらせて、家族とともに夕食を愉しむことを勧めるなど、ワークライフバランスを大切にしました。またオリンピックや女子野球を支援し、スポーツ振興に貢献するとともにダイバーシティの発想も持っていました。そして政孝自身、家族をとても大事にし、釣り、ゴルフ、猟銃など趣味も多く、生きることを愉しんでいました。今の時代にも通用する考え方を当時から実践していた彼は、とても先進的な思考の持ち主であったと思います。
そんな政孝は生前、「できることなら、英国人がウイスキー相手にじっくり生きるを愉しむように、酔うためでなく愉しむために飲んでほしい」という言葉を遺しています。
英国留学での経験を通じて、おいしいウイスキーがもたらすものは、決して酔うことだけにとどまるものではなく、飲む人の人生を愉しませてくれるものであるということを伝えたかったのだと思いますし、人生を愉しむことの素晴らしさを自身の生き方でも表現していたのではないかと思います。
そして、政孝のこの言葉の通り、私たちはウイスキーを通じて皆さんに生きることを愉しんでもらいたい、そのためのウイスキーを提供したいと思い、コミュニケーション・コンセプトとして「生きるを愉しむウイスキー」を掲げました。
ウイスキーの奥行きを伝えたい。新商品「ニッカ フロンティア」に込めた思い
10月1日発売の「ニッカ フロンティア」はニッカウヰスキー創業90周年を機に原点に立ち返り、日本のウイスキー史を切り拓いた竹鶴政孝のフロンティアスピリットを後世に継承していくという思いを込めて開発しました。
「ニッカ フロンティア」は創業の地である余市のヘビーピートモルト※2をキーモルトにしているので、香り高くスモーキーな味わいが楽しめます。ブレンデッドウイスキーですが、モルトウイスキーの比率を半分以上にし、更にノンチルフィルタード※3で仕上げることで、モルトの豊かな香りと複雑で深い味わいを感じられると思います。パッケージは、洗練されたデザインを実現するために瓶やラベルにこだわり、2年半かけてようやく発売に至りました。
※2 ヘビーピートモルトとはピートを強く燻したモルトからつくられる原酒のこと
※3 一般的なウイスキー製造ではにごりや澱の発生を防ぐために「冷却ろ過」を行うのに対し、常温ろ過(ノンチルフィルタード)することで香味成分が豊富に残り、より豊かな香りと複雑な味わいが生まれる
ウイスキーはもっといろいろな楽しみ方がある、奥行きがあるということに気づいてもらえるように、飲み方としては「フロートハイボール」を提案しています。ウイスキー本来の香りや、コクを楽しむのにぴったりな飲み方なんですよ。少しアルコールがきついと思ったら、混ぜることでハイボールにもなります。ウイスキーは炭酸で割ってごくごく飲むだけではなく、多様な愉しみ方があるということを多くの方に実感してもらいたいですね。
同じような思いから、フラッグシップバー「THE NIKKA WHISKY TOKYO」でウイスキーカクテルを提案していて、ウイスキーはもっと面白い飲み方があることを伝えることにチャレンジしています。自分らしくお酒を愉しむことを通じて、生きるを愉しむということを感じてもらえればと思いますし、今後もニッカウヰスキーの商品やコミュニケーションを通じて伝えていきたいと思います。
私の「生きるを愉しむウイスキー」を感じる時
爽快に飲みたい時にハイボールを飲むこともあれば、バーでカクテルを飲む時もあります。バーではバーテンダーのクリエイティビティを五感で感じながらウイスキーを愉しんだり、家では晩酌の最後に、ストレートで飲むこともあります。ピートが感じられる味が好きなので、自社商品に限らずピードの効いたウイスキーを好んで飲んでいます。休日は家族をどうもてなそうか考えたり、旅の計画を立てたりなど、ポジティブなことを考えながらウイスキー飲む時間が、自分にとって生きることを愉しんでいる時間です。