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生きるを愉しむウイスキー【4】品質を守り続けるブレンダー

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生きるを愉しむウイスキー【4】品質を守り続けるブレンダー

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創業90周年を迎えたニッカウヰスキーは新たなコミュニケーション・コンセプト“生きるを愉しむウイスキー”を掲げています。ウイスキーが持つ豊かな個性や多様な楽しみ方を通して、人生そのものを愉しんでほしいという思いを込めています。この連載では、ウイスキーの愉しみ方について、ウイスキーとともに人生を歩むプロたちが全4回にわたって語ります。連載を通してあなたのウイスキーの愉しみ方を見つけませんか?

最終回はニッカウヰスキーブレンダー室 チーフブレンダーの尾崎裕美、ニッカウヰスキー初の女性ブレンダー石田菜穂にインタビュー。ブレンダーという仕事の役割や難しさ・面白さ、そしてウイスキーの魅力の一つである特徴的な香りについて聞きました。

左からニッカウヰスキー ブレンダー室 石田菜穂、尾崎裕美

ウイスキーの味をつくる技術者。ブレンダーは過去・現在・未来をつなぐ仕事

(尾崎)ブレンダーは、樽内でのウイスキーの熟成の状態を見守り、多くの原酒の中から厳選してブレンドする技術者です。原酒の味や香りなどの個性を利き分ける力や、ウイスキーのイメージを組み立ててバランスよくブレンドすることが求められます。

役割は大きく分けると3つあり、1つ目は既存商品の品質維持です。今ある商品は、ブレンド内容である処方を毎年見直して商品をつくっています。樽の中の原酒は日々熟成が進んでいるので、1年後に前年と同じ処方でつくると、味が変わってしまうんです。そのため、毎年蒸溜所へ行き、サンプルをブレンダー室に持ち帰りテイスティングをしています。各サンプルの評価コメントをそれぞれ書き出して、さらにブレンダー同士で認識合わせをした上で、翌年の処方を決定します。サンプリングから処方確定まで、大体4ヶ月半かかるんです。

2つ目は、お客さまに喜んでもらえる新たな商品を開発することです。先輩方が仕込んでくれたさまざまな原酒を使って試作品をつくり、マーケティング部門と協議を繰り返して仕上げていきます。マーケティング部からコンセプト提案があり、それに基づいて商品を開発していくこともあれば、ブレンダーが面白い原酒を発見し、それを用いた新商品の提案を行うこともあります。例えばNIKKA DISCOVERYシリーズの「シングルモルト宮城峡 アロマティックイースト」はブレンダーから提案して実現した商品です。

NIKKA DISCOVERYシリーズ「シングルモルト宮城峡 アロマティックイースト」(2022年数量限定発売、現在は終売)

3つ目は、将来のための種まきです。ブレンダーが新商品をつくるときには多様な原酒があった方が良いので、将来のために関係部門と連携して新しい原酒の準備をしています。例えば、技術開発を担う部門に、今ある原酒にはない新たな香りを提案して、試作を依頼することや、原料調達部門に理想の樽や麦芽の確保を依頼したり、逆に新しい提案をもらったりすることもあります。今仕込んだ原酒が実際に使えるのは何年も先になりますが、将来のブレンダーが自由な発想で新商品をつくれるように、原酒のバリエーションを増やして次世代にバトンをつなぎたいと思っています。ブレンダーは過去、現在、未来をつなぐ仕事なんですよね。

サンプリングした原酒とテイスティンググラス

香りを言葉にし、記憶する。ブレンダーに引き継がれるテイスティング法

(石田)ブレンダーの仕事にはマニュアルが無いんです。前の職場は工場勤務で、工程と手順がしっかりと決まっていたのですが、「ブレンダーの仕事ではマニュアルはないから場数を踏むしかない」と言われたときは、正直戸惑いました。テイスティングで同じサンプルを嗅いでも、自分の香りのコメントと先輩ブレンダーの香りのコメントが違うことがあります。その都度、先輩が捉えた香りは表現が違うだけなのか、あるいは私が捉えられていない別の香りのことなのかを確認し、それを繰り返すことで官能力と表現力を鍛えています。例えば、木のニュアンスひとつとっても、木香とか木のガサガサした感じとか、ウッディとかいろいろな表現があるので、先輩ブレンダーに聞きながら、少しずつ自分の中で香りの表現方法を増やしていくことを日々心がけています。

(尾崎)人によって得意・不得意な香りがありますが、それでもやはり経験がものを言うと実感しています。私は以前、乳製品や冷や飯の匂いと言われることが多いダイアセチルという香りが分からなかったのですが、アサヒビールに出向してビールのテイスティングに携わるようになって、ダイアセチルの香りを覚えました。ビールにおいてはあまり好ましくないとされる香りのため、何度も確認するうちにその香りを覚えることができたんです。この経験は今でも役に立っています。不得意な香りがあったとしても、さまざまな経験をすることによって徐々に覚えていけるものです。香りを言葉にする練習と、記憶力が大事ですね。

初ブレンドは20回やり直し。ウイスキーのブレンドの難しさ

(石田)香りを表現することだけでなく、やはりブレンドも難しいですね。品質維持のために毎年処方を見直すという話が尾崎からありましたが、初めて処方見直しのためにブレンドを行った時は20回くらいやり直しました。去年の処方と同じ品質になるように別のロットの原酒を使ってブレンドしていくのですが、できたと思って先輩ブレンダーに見てもらっては修正の繰り返しでした。最初はゴールに向かって進んでいる感覚があるのですが、途中で別の方向に行ってしまってどう修正すればよいか分からなくなるような感じです。そういったときは一旦手を止めて、翌日の朝に一からやり直します。そうすると数回で決まったりするので不思議です。私はネガティブな香りを感じ取るのが苦手で、例えば、木のガサガサする感じとか、もったりしているといった指摘をもらった時には、指摘の内容がどういうことなのか、具体的にイメージできるまで聞くようにしています。

(尾崎)ブレンドする時は、原酒の在庫も頭に入れておかないといけません。商品化しても次の年に原酒が無いのでつくれない、というのは困ってしまうので。また、原酒の単価も重要です。高品質・在庫・単価と考えることはたくさんあります。

ブレンドで自分のイメージを形にする。新商品づくりの面白さ

(石田)ブレンドは難しさとともに面白さも感じています。今年初めてブレンダー起点の新商品提案会に参加しました。普段のブレンドは、既存商品の品質維持のための処方見直しが一番多く、明確な目標品質が分かっているのでそこに向かってブレンドしていきます。一方で、提案会の時は明確なゴールはなく、自分の頭の中にあるイメージに向かってブレンドしていきます。試行錯誤していると、最初のイメージとは少しずつ変わってくることもあったのですが、最終的に良いものができたという感覚を味わった時、ブレンドの面白さはここにあるのだなと実感しました。

(尾崎)実際に商品化されたらうれしいですし、それがお店に並んでいるのを見た時、お客さまが購入する姿を見た時、評価された時もうれしいですよ。私が初めて処方を担当した「シングルモルト 宮城峡 ピーテッド」が世に出た時はとても感激しました。その喜びを彼女も味わってほしいですね。

「シングルモルト 宮城峡 ピーテッド」(2021年数量限定発売、現在は終売)
石田がブレンドしたウイスキーを尾崎に見てもらうことも

ウイスキーの香りの違いを体験!まずは5つの特徴的な香りから

(尾崎)ウイスキーの香りを分析してみると、何千という香りが複合されているので、一言で言うのは難しいのですが、代表的な香りとして「ピーティ」、「シェリー」、「フルーティー」、「モルティ」、「ウッディ」の5つが分かりやすいと思います。ニッカウヰスキーの蒸溜所限定商品には、それぞれの特徴を感じられるものがあります。

・燻製のようなピートの香りを感じられる「シングルモルト余市 ピーティ&ソルティ」
・シェリー樽で熟成させた原酒を使用した「シングルモルト余市 シェリー&スイート」・「シングルモルト宮城峡 シェリー&スイート」
・酵母や蒸溜の方法によりフルーティーで華やかな香りを楽しめる「シングルモルト宮城峡 フルーティー&リッチ」
・麦芽の穀物感を出した「シングルモルト宮城峡 モルティ&ソフト」
・新樽のウッディな力強い香りがある「シングルモルト余市 ウッディ&バニラ」

まずはこれらの商品で特徴的な5つの香りを知ると、「こんなに違うんだ!」と実感できると思います。香りを覚えていくことで、他の商品を飲んでいるときに「あ、シェリーの香りがある!」とその香りを見つけることができるようになります。

(石田)私も今までシェリーを飲んだことがなかったので、スペイン料理屋に行ってシェリーを飲んでみて、それからシェリー樽に入っている原酒を嗅いでみたら、「確かにこれはシェリーの香りがある!」と分かるようになりました。香りの発見ができる数が多ければ多いほど、ウイスキーはさらに面白くなりますね。

私の「生きるを愉しむウイスキー」を感じる時

(尾崎)私の場合、ウイスキーは仕事なので、日々家に帰ってリラックスしながらウイスキーを飲んでいる時間が、生きるを愉しむウイスキーだと思っています。食事中はビールを飲んでから焼酎やチューハイを飲むことが多いですが、ウイスキーは食事が終わった後に落ち着いて飲むことがほとんどです。最近は「スーパーニッカ」を氷なしの水割りにして、香りを楽しみながら飲んでいます。良いことがあった時には、芳酵な味わいが特徴の少し高価な「フロム・ザ・バレル」を飲むことも。
チーフブレンダーになってからは、バーに行く機会が多くなりました。最近は一人で行くのも大好きで、出張先で初めて行くバーの扉を開ける時のドキドキと期待感は、とても面白いですね。カウンターに座ってバーテンダーの方と何気ない話をしたり、たまには隣のお客さまと話したり。それこそ一期一会ですよね。

ニッカウヰスキーの創業者である竹鶴政孝のように、仕事以外でもいろいろな愉しみを持っていたいとも思っていまして、一昨年から野菜作りを始めました。とても楽しくて毎日仕事帰りに畑へ行っています。あとは中学時代にサッカーをしていたので、ブレンダー室のある柏のサッカーチーム「柏レイソル」のホームゲームには、出張がない限り全て行っています。アサヒビールが特別協賛している浅草サンバカーニバルも十数年連続で参加していました。今はアサヒビールチームがなくなってしまったのですが、“歌って踊れるチーフブレンダー”を目指しています。

(石田)「生きるを愉しむ」に使われている「愉しむ」という漢字を調べてみたところ、”何かを心から喜びうれしく感じる”や、”精神的な満足感”とあり、それって何だろうと考えた時に浮かんできたのは、家族の笑顔でした。以前から兄妹や実家に新商品をよく送っていて、今年は「ニッカ フロンティア」というウイスキーの新商品を送ったんです。先日兄の家に遊びに行った時に、それを一緒に飲みながら、兄の子どもたちの話や両親の話、仕事の話など、何気ない会話をしました。家族と一緒に自分が携わっている商品を飲みながら語り合う時間が、私にとってまさに「愉しむ」だなと実感しました。以前は私の家族がウイスキーを家で飲んでいるところを見たことがなかったのですが、最近はたまに飲んでいるみたいでそれもうれしいです。自分が携わった商品を世の中に出せるように頑張りたいと思います。

生きるを愉しむウイスキー【4】品質を守り続けるブレンダー

飲む

生きるを愉しむウイスキー【3】ニッカを愛するバーテンダー

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