【北欧は、食べて、旅する】第6回 季節のおいしさと、伝統の味
この記事のキーワード
SHARE
北欧を旅して、ガイドブックやエッセイなどを執筆している森百合子と申します。これから、北欧の食と暮らしにまつわるエッセイを全6回でお届けします。
ちなみに北欧とはどの国を指すか、ご存知でしょうか。一般的にはデンマーク、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、フィンランドの5カ国が北欧として分類されています。わたしは2005年に初めて訪れて以来、この5カ国を繰り返し旅してきました。こちらの連載でも、5カ国あちこちの町と人、味が登場する予定です。北欧は、食べて、旅する。ぜひ一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
プロフィール
森 百合子(もり ゆりこ)
北欧ジャーナリスト、エッセイスト。主な著書に『探しものは北欧で』(大和書房)、『日本で楽しむ わたしの北欧365日』(パイ インターナショナル)など。NHK『世界はほしいモノにあふれてる』『趣味どきっ!』などメディア出演も。北欧食器とテキスタイルの店『Sticka スティッカ』も運営している。
INDEX
四季折々の旬を満喫
連載最後となる今回は、四季それぞれの味、そして伝統の味をご紹介したいと思います!
わたしが初めて北欧を旅した季節は、夏でした。7月の上旬で、北欧では夏休みまっさかり。日本では夏休みといえば8月が中心ですが、北欧では6月末に夏至を祝い、その後は夏休みモードに。そして8月後半には仕事や学校へ戻るのが一般的なのです。
初めて訪れたフィンランドの首都ヘルシンキで、朝市を訪れるとイチゴの屋台が目に留まりました。そう、北欧ではイチゴは夏の味なのです。ホテルで食べた朝食は野菜やフルーツが少なかったのでビタミン補給にもちょうどいいかも、と注文すると、大きなスコップで豪快にイチゴをすくいとって、ビニール袋に入れて渡してくれました。日本だと潰れないようにパックにきれいに並べられているのが常なので、扱い方の違いも新鮮でした。ホテルの部屋に戻って食べてみると、色も味も濃い!甘さは控えめながら、ほどよく酸っぱい濃厚な味わいが旅の途中の体に染みました。
葉物などの野菜が育ちにくい一方で、ベリー類が自生しやすい北欧では、ベリー類は野菜に代わる貴重なビタミン源となっています。夏の間に収穫したベリーをジュースにしたり、凍らせて秋や冬にもいただきます。イチゴのほか、ブルーベリーやラズベリー、リンゴンベリー(コケモモ)などさまざまな種類のベリーが親しまれていて、夏はイチゴとブルーベリーの季節。スウェーデンで友人のサマーハウスを訪れた際には新鮮なブルーベリーをたっぷりと使ったパイをご馳走になりました。カフェやベーカリーでも、イチゴやブルーベリーを使った菓子パンやお菓子が並ぶので、夏に訪れる方にはぜひフレッシュなベリーを味わってほしいです。
イチゴとともに市場で存在感を放っていたのが豆の屋台です。山のように積まれたエンドウ豆の屋台に人が群がっていて、見ると買ってその場で食べている人もいました。皮の中の豆だけをぽりぽりと食べて、皮の部分はポイと捨て去るので、屋台のまわりには豆の皮が散らかっているという有り様。エンドウ豆を生で食べることに(そして皮をそこらに捨てることにも)衝撃を受けましたが、その数年後デンマークの友人宅で、わたしも初の豆体験をしました。甘みがあってぽりぽりとした食感も癖になり、スナック感覚であっという間に1パックを友人たちと食べ尽くしてしまいました。エンドウ豆は5月の終わり頃から出回り、市場に並ぶと「夏がやってきた!」とばかりに、みなが飛びついて食べるのだそう。
もうひとつ夏にかけて出回る旬の味といえば、ルバーブ。最近は日本でも見かける機会が増えましたが、北欧ではルバーブが市場に並ぶと、夏の訪れを感じるそうです。生のままでは食べられないので砂糖で甘く煮て、アイスクリームを添えて食べたり、パイの中身にしたり、ジュースにしていただきます。酸味のきいた味わいは夏のデザートにぴったりです。
そして秋の味覚といえばキノコ。夏はベリー摘み、秋はキノコ狩りに出かける人も多く、黄色いラッパのような形をしたアンズタケがとくに親しまれています。ほかにポルチーニ茸も人気が高く、スウェーデンの国王カールヨハン4世が好んだことから、カールヨハンの名前でも知られています。秋にレストランを訪れるとキノコを使ったメニューが並び、スープや肉料理のソースとしても使われます。友人のおすすめは、バターソテーにしてトーストにのせて食べること。キノコもベリーと同じく、旬に収穫したらピクルスにしたり保存食にしてシーズン以外にも楽しみます。市場やスーパーマーケットでは乾燥させたキノコも売っています。
北欧といえば冬が長く、伝統的な家庭料理には温かいオーブン料理や煮込み料理もあります。ニンジンやカブ、根菜などをマッシュしてグラタン皿に敷き詰めて焼くキャセロール料理は冬の定番の味。スウェーデンには「ヤンソンの誘惑」というユニークな名前で知られるじゃがいものグラタン料理があります。フランスのドフィノワなど、じゃがいものグラタン料理は他国にもありますが、「ヤンソンの誘惑」の特徴はアンチョビをきかせること。しかもそのアンチョビが少し甘いのです。日本でアンチョビといえば、イタリア産のカタクチイワシを使ったものが一般的ですが、スウェーデンではニシン科の小魚を砂糖とスパイスで漬けたものをアンチョビと呼びます。「ヤンソンの誘惑」は、チーズやベシャメルソースは使わずに生クリームをまわしかけるだけの簡単レシピなのですが、このアンチョビの漬け汁を一緒にくわえることで独特の甘みのある仕上がりになるんです。
ミートボールとフィッシュボール
北欧料理といって思い浮かぶもの……その筆頭はミートボールかもしれませんね。伝統料理の店に行けば、まずメニューに載っていますし、スーパーマーケットでは冷凍食品としても売られています。北欧各国で味わってきましたが、国によってスタイルが違うのも面白いところ。こちらはスウェーデンの首都ストックホルムで食べたもの。
丸いミートボールにグレイビーソースをかけて、いただきます。北欧らしいのは、リンゴンベリー(コケモモ)を添えて食べること。リンゴンベリーは北欧の食卓でもっとも親しまれているベリーで、生で食べるには酸味が強すぎるため砂糖漬けやジャムにして食べるのですが、ミートボールのほかニシンのフライやロールキャベツなどの付け合わせにも使われます。
フィンランドやノルウェーでも丸いミートボールが出てきましたが、デンマークのミートボールは平たい小判型で、小さなハンバーグのような形状でした。どうやらドイツのミートボールと似ているようで、前述の3国とは違って大陸側とつながりがあるのが面白いですね。ちなみにデンマークでは、ミートボールはオープンサンドの具材として使われることもあります。
ノルウェーやアイスランドでは、魚のすり身で作ったフィッシュボールもよく食されています。タラなど白身魚で作られたフィッシュボールは、おでんの練り物のような食感で、どことなく親しみを感じてしまいます。
水産王国のノルウェーを筆頭に、魚もよく食べる北欧諸国。伝統的なメニューで使われてきたのはサーモンとニシン、そしてタラなどの白身魚です。スモークサーモンやニシンの酢漬けはホテルの朝食ビュッフェでも並んでいますし、市場へ行くと燻製したさまざまな魚が並んでいます。現地で食べて気に入ったのが、ニシンステーキ。バターでソテーするので風味がよく、マッシュポテトや酢漬けのきゅうり、リンゴンベリーなどと一緒にいただきます。
旅の途中、食べたくなるのは魚のスープです。サーモンを使ったフィンランドの「ロヒケイット(ロヒがサーモン、ケイットがスープの意味)」や、さまざまな魚介を入れたフィッシュスープはどの国でも親しまれ、市場のレストランやカフェのランチメニューでもおなじみ。クリーム仕立てやトマトを使ったブイヤベース風などさまざまな味がありますが、北欧のフィッシュスープに欠かせないのがディルです。ディルは魚料理によく合わせるハーブで、フレッシュディルをたっぷりと散らしたスープを飲むと北欧にいるなあと感じます。
ご当地ジビエと、ファストフード
北欧ならではのジビエといえばヘラジカ、そしてトナカイでしょう。トナカイは北極圏に暮らす先住民族サーミ人が飼育してきた伝統的な食材です。シチューのように煮込んでマッシュポテトと一緒に食べたり、サラミ肉をサンドイッチにで食べたりします。フィンランドの北極圏の町を訪れたときにはフレッシュなトナカイのステーキや、日本人のシェフが営むレストランでトナカイのたたきもいただきました。脂肪が少なく、鹿肉などの赤身肉が好きな方にはおすすめの味です。
ほかに北極圏ではライチョウ(日本の天然記念物とは異なる種類。写真は北極圏のおみやげ屋さんで見つけたヘラジカやライチョウのナプキンホルダーです)、アイスランドでは海鳥も食べます。忘れられないのはクマ。肉は固くて癖が強いと聞いて食べませんでしたが、煮込んだスープを味見したところ、かなり強烈な後味でした。
ジビエとは違いますが、現地で食べて感動的なおいしさだったのが、アイスランドのラム肉です。バイキングたちがアイスランドを開拓するにあたって持ち込んで以来、十数世紀にわたって人々とともにあった羊。首都レイキャビクで空港から町へ移動する際、羊が放牧されているのが見えましたが、広々とした野原でワイルドハーブを食べて育つため、肉の香りが良くなるのだそう。わたしはもともとラム肉好きだったのですが、あまりのおいしさに「もうアイスランド産以外は食べられない……」と思ったほど。アイスランドを訪れる方はぜひ食べてみてくださいね!
では最後に、北欧のどの国でも愛されているファストフードをご紹介しましょう。庶民の味といえば、ホットドッグです。やはり国によって特色があり、デンマークでは通常の細長いバンズで挟むタイプの他に、フランスパンの真ん中にぶすっと差して「フランス風ホットドッグ」も親しまれています。フランス由来ではなく、デンマーク発祥で勝手にフランス風と名づけているのが面白いのですけれどね。ノルウェーではロンペというフラットブレッドでくるんで食べるのがお約束。
ソーセージにはケチャップやマスタードをかけていただきますが、北欧のマスタードは辛さ控えめで、甘みがあるのです。デンマークではリモラーデとよばれるタルタルソースのようなソースをかけるのですが、これも北欧ならではの調味料。どちらも癖になる味で、魚のフライなどにも合うので、おみやげにいつも買って帰っています。
ホットドッグの屋台は駅前など町中で見かけるほか、クリスマスマーケットやアイススケートのリンク、蚤の市といったイベントでも出店しているので、旅の途中でも手軽に試すことができます。なかには行列のできるホットドッグスタンドもあり、アイスランドの首都レイキャビクには、クリントン元大統領が訪れて絶賛したという「世界でいちばんおいしい」ホットドッグ屋台もあるんですよ。
さて6回にわたって北欧の食と暮らしをご紹介してきましたが、食べることってその国を理解するのに、とてもいい入り口なんですよね。デザインや可愛い雑貨と比べると、北欧の食べ物についての情報はまだまだ日本ではあまり知られていませんが、今回の連載が、北欧のまた違う一面を知る機会になったとしたら嬉しいです。

