4年ぶりの開催。隅田川花火大会にかける花火師たちの情熱
この記事のキーワード
SHARE
この夏は4年ぶりに全国で花火大会やお祭りの開催が予定されています。皆さんも夏の風物詩を心待ちにしていたのではないでしょうか。今回は、日本最古の花火大会と言われる「隅田川花火大会」の歴史や見どころに加え、花火師・小勝康平さんと細谷圭二さんのインタビューをお届けします。花火大会がますます楽しみになること間違いなしです!
INDEX
将軍吉宗が打ち上げた花火を起源とする日本最古の花火大会
「隅田川花火大会」は、江戸時代に八代将軍徳川吉宗が打ち上げた「両国川開きの花火」を起源とする日本最古の花火大会です。
江戸時代の享保17年(1732年)に大飢饉が発生し、多くの餓死者が出たうえに、疫病まで流行したことで、国勢に多大な被害と影響を与えました。犠牲となった人々の慰霊と悪疫退散を祈って、幕府(8代将軍吉宗)が催した水神祭に続き、享保18年(1733年)に両国橋周辺の料理屋が公許(許可)により花火を上げたことが「両国の川開き」の由来とされています。
その後、両国橋上流にて開催されていましたが、交通事情の悪化等に伴い、昭和37年(1962年)以降開催ができなくなりました。その後、昭和53年(1978年)に「隅田川花火大会」と名を改め、ビルで囲まれた隅田川で復活。打上場所もさらに上流へ移動し、打上会場も2カ所となりより多くの人が楽しめるようになりました。
隅田川花火大会2023の見どころは?
2023年の隅田川花火大会は、7月29日(土)19:00~20:30開催。二つの会場で約2万発の花火が打ち上げられます。第一会場は桜橋下流~言問橋上流で9,507発(コンクール玉200発を含む)、第二会場は駒形橋下流~厩橋上流で10,650発です。
第一会場では、両国花火ゆかりの業者および国内の代表的な花火大会で優秀な成績を収めた業者計10社による花火コンクールが実施されます。
※荒天等の場合は中止となります。
インタビュー:第一会場の打ち上げを手掛ける丸玉屋小勝煙火店の小勝さん
―小勝さんにとって隅田川花火大会とはどういった花火大会ですか?
世界でも有数の大都市・東京で、日本で1、2を争う知名度のある花火大会に携われるのは光栄です。
花火大会は事故なく皆さんに楽しんでもらうことが一番大事なのですが、隅田川は観客の皆さんとの距離が近いので安全性により一層気を遣う現場です。でも距離が近い分、皆さんが楽しんでくださったことが伝わるので、花火師としての喜びをたくさん感じられる大会でもあります。
打ち上げ会場への花火や機器の搬入と撤去は川から船で行うのですが、花火が終わって荷下ろしのために船で川を下っているときに近隣のビルや橋の上から、拍手や「花火良かったよ」といった声をかけてもらえるんです。そういった声や皆さんの笑顔は花火師冥利につきますね。
―観客との距離が近い隅田川ならではですね。第一会場の特徴や楽しみ方を教えてください。
第一会場は、5号玉も打ち上げることとコンクールがあることが特徴です。第二会場はより皆さんと近いので2.5号玉までの花火です。コンクールでは、自社以外の9社分の花火の玉と自動装置用のプログラムを預かり代理で打ち上げているので、責任重大ですね。
コンクールのテーマは、タイトルと花火作品でつくる世界観の整合性を大切にしています。加えて色や形の美しさなども考えます。発表される各作品のテーマから世界観を想像する、テーマがどのように実現されているかに注目して見るというのも楽しみ方の一つです。
―今回4年ぶりの開催になりますが、コロナ禍は小勝さんにとってどのような3年間だったのでしょうか?
花火は、いくら自分たちがあげたいと思っても世の中が平和でないと見てもらえないのだと実感しました。「花火を見たい」という観客の思い、「花火大会を開催したい」という主催者の思い、そういった皆さんの思いのありがたさを改めて感じました。
待ち望んでくださった皆さんに、「花火ってこんなもんだったっけ?」とがっかりされないように、「来年もまた見たい」と思ってもらえるように頑張ります。
―花火師としての小勝さんの今後の目標を教えてください。
安全で楽しい花火を打ち上げて、皆さんに求め続けてもらえないと花火大会は続かないんです。花火・光・音楽で夜を彩るエンターテイメント性の高い「STAR ISLAND」というショーを2017年から手掛けているのですが、花火のあり方の多様性や可能性が広がっていることを感じます。
培ってきた技術や伝統に加え、可能性を追求し、自信を持って良いショーをお届けしていくことで、花火文化を後世につなぎたいです。観客の皆さんにももっと自由に花火を楽しんでもらえると嬉しいです。
―最後に花火大会を楽しみにしている皆さんへのメッセージや見どころをお願いします。
この3年間は、平常時にはなかなか注力できなかった新しい花火の開発など、復活のときに向けて準備をしてきて、実は新しい色合いの花火や技術も開発しているんです。でも、皆さんには花火そのものだけではなく、家族や友達とお酒を飲んだりわいわいしながら花火を見るという文化、花火大会という風物詩を楽しんでもらいたいなと思っています。そして、やっぱり花火っていいなと思ってもらえたら言うことないです。
隅田川は一カ所にずっと座って見るのではなく移動しながら立見の方も多い大会。広大な土地で打ち上げる花火とは違った特別な花火大会なので、そういった独特の雰囲気も含めて楽しんでほしいですね。
花火大会は遠くからでも見られますし、100万人が一緒に楽しめる。自分の目で見られる生のエンターテイメントでは最大級だと思っています。それはとっても素敵な文化だなあと。皆さん、ぜひ4年ぶりの夏のイベントを楽しんでください。
インタビュー:第二会場の打ち上げを手掛けるホソヤエンタープライズ細谷さん
―細谷さんにとって隅田川花火大会とはどういった花火大会ですか?
8代将軍吉宗が両国川開き花火を始めたときの花火師・鍵屋6代目篠原弥兵衛が当社のルーツです。以来、戦中や昭和37年から16年間の中止期間を除いて、ずっと隅田川花火大会に携わってきました。
私自身は花火業界に入って38年になりますが、この大会で思い出深いのは、2011年東日本大震災の後に1カ月遅れで開催したときのことです。慰霊と復興を願って、亡くなった方と行方不明の方の数とほぼ同数の約2万発を打ち上げました。たむけの花の意味を込めて打ち上げた花火には、特別な思いがあります。
―今回4年ぶりの開催になりますが、今どのように感じていますか?
3年間のブランクが空いているというのは、不安に感じる部分もあるんです。火薬を扱う花火は、失敗は許されず、絶対に事故を起こすわけにはいかない。4年ぶりの隅田川花火大会を「やって良かった、成功した」と喜べるのは、安全に大会が終わった翌日などにホッと安心できたときだと思います。
実は、2022年は全国で再会される花火大会がある中、全国の花火関係者からは、「東京が元気を出さないと日本全体が元気にならない」、「日本を盛り上げるために東京の花火大会が待ち遠しい」と期待を込めた叱咤激励をもらっていました。今回開催することで、そういった声にもこたえられることの喜びは大きいです。
―細谷さんの考える隅田川花火大会の特徴や魅力を教えてください。
隅田川花火大会は、川幅が狭く、付近にはビルやマンションが立ち並ぶ場所で開催する分、安全のための規制が日本一厳しいと言っても過言ではないんです。打ち上げられる花火の大きさも限られるので、尺玉(1尺=10寸=30.3cm)はないですけど、都会のビルに写し出される花火は大きな花火の何倍も美しいと評する方もいるくらい、特別な光景が楽しめる花火大会だと思っています。
―観客の皆さんへのメッセージをお願いします。
新型コロナが終息したわけではないですが、皆さんには、今回の花火を通して日常が戻ってきた安心感をお届けしたいと思っています。3年間休んでいた分、変わったことをするのではなく、また単なるお祭りごととしてではなく、原点回帰の意味を込めたいと思っています。吉宗が大飢饉や疫病で犠牲となった方々への慰霊と悪疫退散を祈って始まった「両国川開きの花火」のように、コロナ禍で亡くなった方への慰霊や鎮魂、苦しんだ方々への思いを込めます。花火を見て、皆さんが心の安らぎを感じていただけると嬉しいです。
花火は下を向いて見られない。みんなで空を見上げて花火を楽しんで、上を向いて前向きな気持ちになっていただきたいです。
―最後に細谷さんにとって花火師の仕事とは何ですか?これからの夢を聞かせてください。
コロナ禍を経て、皆さんに見ていただいてこそ私たちの仕事の意味があると実感しています。平和でないと花火はできません。火薬で人が集まるのは花火だけかもしれないですよね。戦争や紛争に巻き込まれている人たちにも花火を見てもらって、みんなで楽しむ平和な世界にしていきたいです。
そのためにも花火文化を残すのが私の使命です。お客さまを飽きさせないように、温故知新で、玉に命を吹き込む技術者としての集団であり続けながら、音楽と合わせた演出といったエンターテインメント性や打ち上げ技術の向上など進化を続けることが大切だと思っています。職人じゃなきゃできないことをこれからも追求していきたいです。
いかがでしたか?花火師の皆さんの思いに触れて、ますます花火大会が楽しみになりましたよね。みんなで4年ぶりの夏のイベントをぜひ楽しみましょう。