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エノテカ創業者・廣瀬恭久が語る「ワインのチカラ」 Vol.3

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エノテカ創業者・廣瀬恭久が語る「ワインのチカラ」 Vol.3

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ワインは面白い!そう語るのは、独自のビジネスモデルでワイン事業を展開している「エノテカ」の創業者・廣瀬恭久。長年にわたりワインと向き合ってきた廣瀬が語るワインの魅力を全4回にわたりお伝えします。連載3回目は4月のイタリア出張や、ワイン生産者との交流についてお話しします。

プロフィール

廣瀬恭久(ひろせ やすひさ)

1949年兵庫県生まれ。73年に慶応義塾大学を卒業。鉄鋼系商社を経て、実家の半導体部品メーカーに入社。88年にエノテカを創業。2015年にアサヒグループ入りし、現在はエノテカ顧問。

ワインは造り手の人柄が反映される飲み物

4月にイタリアに出張してきました。19日間に及ぶ出張で体力的にはきつかったのですが、とても実りの多いものとなりました。目的は大きく2つ。1つ目はヴェローナで開催されるイタリア最大級のワインの見本市「ヴィニタリー」に参加すること。
2019年以来、4年ぶりです。ヴィニタリーには、イタリアを中心とする4,000社以上のワイナリーが出展します。現在取引のある生産者のブースで日本未発売のアイテムや新ヴィンテージを試飲したり、新しく取引を開始する生産者とミーティングをしたり、さらには、気になるワイナリーにはアポ無しで名刺を渡して商談を申し込んだり。毎日6~7件の商談をして5日間、新たな出会いや発見がたくさんありました。

「ヴィニタリー」の会場で生産者と
「ヴィニタリー」の会場で生産者と

こうした見本市では効率的にたくさんの生産者と会うことが出来ますが、もちろんワイナリーにも足を運びます。生産者と直接会ってコミュニケーションをとり、自身の舌でワインのクオリティを確認し、自身の目で生産設備や製造方法などを見ることがとても重要だと思っています。私は主にフランス、イタリアを中心に回りますが、その他の国はエノテカの担当者が年に1度は必ず現地を訪れています。

今回の出張の2つ目の目的は、今私が一番注目しているトスカーナ州のモンタルチーノ地区を訪ねることでした。モンタルチーノは、サンジョヴェーゼの変異種であるブルネッロ(サンジョヴェーゼ・グロッソ)というブドウ品種を使ったトスカーナを代表する高級ワイン「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」を生産する地域です。素晴らしいクオリティを持ちながら、日本では、まだそれほど浸透していないと思われることから、エノテカがおいしいブルネッロをもっと紹介したい、という思いで注力しています。

サンジョヴェーゼは、成熟が遅く育てにくい一方、丁寧に育てられたブドウから造られるワインは豊かさと強さに加えてエレガントで繊細な味わいになるのです。私はブドウ栽培に妥協せず、ワイン造りに対してひたむきな姿勢の生産者のワインを取り扱いたいと思っています。造り手の人柄がワインに反映されるからです。それを知るにはやはり現地を訪問することが一番です。

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノのワイナリーを訪問
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノのワイナリーを訪問

ワインに対する情熱が、偶然を引き寄せる!

このように私は生産者との関係性をとても大切にしていますが、皆さんに驚かれるのは、ほとんどの生産者と契約書を交わしていないということです。ワイン業界は、いわゆる“シェイクハンズ”の世界です。“ジェントルマン・アグリーメント”とも言うのですが、人としての魅力や信用で成り立っている世界なのです。多くは家族経営なので世代が変わることで大きく方針が変わることはないですし、ワインの生産量や出来は天候にとても左右されるので契約書でしばることが難しいということもあります。

新たに取り引きしたいと思うワインを見つけることは、現地のワインショップやレストランで情報をもらうことが多いです。「こういうタイプのワインを探している」と伝えてオススメを紹介してもらうのです。ソムリエが出してくれたワインをテイスティングすれば、その生産者が目指しているものがすぐにわかります。

今回の出張でもそういう出会いがありました。小さなワイナリーなのですが、とにかくワイン造りに対する真摯な姿勢が素晴らしい。飲んだ瞬間、サンジョヴェーゼの良さが、全面に感じられるワインでした。その生産者にアプローチすると、生産量が少ないし、日本のインポーターはすでにいると断られたのですが、どうしても諦めきれない。2度目に訪問した際もまだ良い返事はもらえませんでした。

ただ、別の日の夜、モンタルチーノから少し外れた街のレストランで一人食事をしていたら、その生産者家族が偶然やってきて、となりのテーブルに座ったのです。しかもあろうことか、ちょうどそのとき、私はその生産者が手がける「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・レゼルヴァ」を楽しんでいたところだったのです。私も驚きましたが、生産者が私とそのボトルを見て喜んでくれたのは言うまでもありません。それからすっかり意気投合し、ついにエノテカとの取引を決めてくれることになりました。

私にはこのような偶然の出会いや巡り合いみたいなことがとても多いのです。でもその偶然は単なる偶然ではなく、ワインに対する情熱や絶対に諦めない執念が引き寄せるものなのではないかと思っています。

モンタルチーノのワインショップにて
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの生産者とのテイスティング

世界に名だたるワイン醸造家たちと交流

エノテカ創業当時から付き合いが続いている生産者はたくさんいます。今年は多くの生産者が4年ぶりに来日しており、直接会って話せることにとても喜びを感じています。

どの生産者もワイン造りへの志が高く、本当に素晴らしい人ばかりなのですが、中でも世界最高峰のボルドーワイン「ペトリュス」のオーナーファミリーの二代目であるクリスチャン・ムエックスさんは造り手としてとても尊敬すると同時に、とても気が合う親友です。
ボルドーのスターワインを育てあげた世界屈指の醸造家ですが、高級ワインの名に奢ることなく、ブドウ栽培に注力したワイン造りを行い、今は「シャトー・トロタノワ」「シャトー・ラ・フルール・ペトリュス」「シャトー・オザンナ」「シャトー・ベレール・モナンジュ」などのワインを造っています。アートの世界にも精通していてそういった点でも気が合いますね。相手の立場を常に考える人で、ビジネスを超えて信頼できる人です。

彼は日本が大好きで、来日するとよく京都に一緒に行き、鴨川のほとりを散歩しながらいろんな仕事の話をしました。「シャトー・オザンナ」というブランド名はその散歩の途中で生まれたんですよ。いくつか候補があって、どれにしようかと迷っている彼に、我々が日本でしっかり売るから、日本人が発音しやすい「オザンナ」にして欲しいと言ったら、それを採用してくれました。

家族ぐるみの付き合いなので、我が家で一緒に食事をすることも。その時は家のワインセラーから、彼らが地元ではなかなか飲まない、とっておきのブルゴーニュのワインを出して一緒に楽しみます。反対に私がボルドーに行く際は、彼の自宅に招いてもらい、彼が造ったワインをご馳走になります。エレガントでピュアなワインで飲むたびに感動します。

クリスチャン・ムエックスさん
クリスチャン・ムエックスさんがオーナーを務めるジャン・ピエール・ムエックス社が手がけるワイン

”口説いた”生産者と一緒に、ブランドを磨き上げていく

エノテカが世界中から選んできたワインをお客さまに買っていただいて、「こんな良いワインを紹介してくれてありがとう」「こんなにおいしいワインがあったなんて」というお声をいただくことが、我々ワイン商にとってみれば一番の喜びです。ですので、本当においしいと思うワインは絶対にエノテカで取り扱いたい。

今回のイタリア出張で取引が決まった生産者のように、先方にもいろんな事情がありますよね。それをどうやって“口説く”か・・・。まさに“恋人をつかむつもり”です。好きな人の趣味は何か、好きなものは何か、想いを達成するために情熱をかけて考えるのと同じように、生産者が何をしたいのか、将来どうすれば幸せになるのかまで考えて徹底的に寄り添います。

そして、いざ付き合ってくれることになったら、今度は我々の責任になりますから、日本や東南アジアのマーケットで、今まで以上にそのワインのブランド価値を上げ、ビジネスとしても大きく育てていくことに全力で取り組みます。そうしないと口説いたことが嘘になりますから。

例えば、良いレストランのワインリストに組み込んでもらうとか、百貨店などの高級ワインショップで扱ってもらうなど。さらに私達の最大の強みはショップを持っていることですので、直接お客さまにそのワインのおいしさや想いを語れるんですよね。時には生産者に来日していただき、ショップでテイスティングイベントを行います。 そうやって、生産者と一緒にブランドを磨いていきます。今後も出会いを大事にして、世界中の造り手たちとともに“ワインのチカラ”を高めていきたいと思います。

エノテカ創業者・廣瀬恭久が語る「ワインのチカラ」 Vol.3

飲む

エノテカ創業者・廣瀬恭久が語る「ワインのチカラ」 Vol.4

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