誰もが笑顔で飲酒を楽しむために<後編>
この記事のキーワード
SHARE
毎年11月10日から16日は、厚生労働省が定める「アルコール関連問題啓発週間」です。後編は日本国内におけるアルコール関連問題の取り組みについて、アサヒビール コーポレートコミュニケーション部の西原香織に話を聞きます。
INDEX
国内におけるアルコール関連問題について
ー 日本国内ではアルコール関連問題についてどのように考えているのでしょうか?
日本国内でも「不適切な飲酒」を含むアルコール関連問題について重く見ています。2010年に「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を掲げたWHOの動向も踏まえ、2013年に「アルコール健康障害対策基本法」が成立し、第1期アルコール健康障害対策推進基本計画が始まり、2021年から第2期がスタートしています。
ポイントの一つは、アルコールが原因で起こる健康障害を「発生」「進行」「再発」の3段階に分け、対策に取り組む点です。「進行」「再発」は医療的な知見や技術からアプローチがほとんどです。一方、酒類メーカーである私たちは初めの「発生」をいかに防ぐかに取り組んでいます。
ー アサヒビールはその「発生」を防ぐために何をしているのですか?
適正飲酒に反するような表現を避ける。TVCMを放映する時間帯を規制する自主基準を設けたり、お客さまが十分な情報を得た上で商品の購入を決定できるよう整備を進めています。例えば、主な商品に含まれる純アルコール量(g)を企業サイト上・缶体に表記しています。それから、お客さまにとって分かりやすい取り組みで言えば、2020年末から始めた「スマートドリンキング」ですね。
ー「スマートドリンキング」とは何でしょうか?
「スマートドリンキング」(通称:スマドリ)は、一言で言うと「飲み方の多様性」を推進していく取り組みです。
世の中にはお酒を飲む人もいれば、飲まない人もいます。体質的にお酒を飲める人でも、飲みたい時もあれば、「今日はお酒を飲みたい気分ではない」と思う時もありますよね。私たちは、そんな人々の状況や場面における“飲み方”の選択肢を拡大し、誰もがお酒のある場を自分のペースで楽しんでもらうために、新たな商品やサービスの開発に取り組んでいます。
ー 具体的にはどんな取り組みを指すのでしょうか?
まずはアルコール度数の低い商品を新たに開発することで、お客さまの選択肢拡充に取り組んでいます。
アルコール分0.5%のビールテイスト飲料『アサヒ ビアリー』『アサヒ ビアリー 香るクラフト』、アルコール分0.5%のワインテイスト飲料『ビスパ』を発売。アサヒビールはビール類、RTD、ノンアルコールの販売容量計において、2025年までにアルコール分3.5%以下のアルコール、およびノンアルコール商品の構成比を20%にすることを目標に掲げています。
スマドリ社や社外と協力し、課題へアプローチ!
アサヒビールは2022年1月、電通デジタルと共同でスマドリ株式会社を設立し、同年6月には渋谷のセンター街に「SUMADORI-BAR SHIBUYA(スマドリバー渋谷) 」 をオープンしました。 “お酒を飲める人と一緒に安心して楽しみたい”というお酒を飲まない人・飲めない人の声から生まれたバーで、アルコール分0.00%、0.5%、3.0%のドリンクを100種類以上楽しむことができます。
ー「スマドリ」を推進するために、社外とも連携しているのですね。
連携しているのは電通デジタルだけではありません。バーのオープンと同時に、一般社団法人渋谷未来デザインと『渋谷スマートドリンキングプロジェクト』を開始しました。複数の大学やアサヒビールとも連携し、教授や学生による視点やさまざまな立場からスマドリ推進やアルコール関連問題の解決に向けてアプローチを試みています。
ー それぞれの大学とはどのような取り組みをしているのですか?
実践女子大学や國學院大學ではスマドリの未来や、お酒が飲める人と飲めない人がお酒やお酒以外の飲みものを一緒に楽しめるアイデアを考えています。立教大学ではスマドリを活用した渋谷の地域課題解決に取り組み、筑波大学では学生が企画する若年層向けの健康教室に酒類メーカーの視点から情報提供や助言を行っています。
こちらの取り組みを一方的に伝えるのではなく、ワークショップや双方的なコミュニケーションを通して、学生にとっても自分事として“お酒との付き合い方”に向き合ってもらい、頭と心に残るような機会を目指しています。
「SUMADORI-BAR SHIBUYA」を起点として、社外の方とつながり、ひとつのコミュニティとして適正飲酒に取り組むことで、一社では成し得なかった新たな取り組みの創出につなげたいです。
ー 社外の色々な人と組むと、どんなメリットがあるのでしょうか?
酒類メーカー以外の視点や強みを持った人と連携することで、私たちだけでは気づけなかった問題の真因や解決策にたどり着ける点です。それは社会にとっても大きなメリットをもたらし、社会課題の解決につながります。
「不適切な飲酒をしている人」と一口に言っても、その中には色々なパターンの人がいます。多量飲酒を例に挙げた場合、多量飲酒が心身に悪いことを“自覚している人”と“自覚していない人”、そして自覚をしている人の中でも、“改善することを望んでいる人”と“特に望んでいない人”、さらに改善を望んでいても“改善方法を知っている人”と“改善方法をよく知らない人”その人の状況によって、こちらが取るべきアプローチは異なりますよね。一人一人が抱える問題を解決するためには、色々な知見や視点を持つ社外の人たちと連携することが効果的だと考えています。
ー スマドリ以外でも連携しているのでしょうか?
2022年、アサヒビールは筑波大学と共同研究を開始しました。アルコール関連問題対策の第一人者である吉本尚准教授(所属:医学医療系地域総合診療医学)の研究グループとの取り組みです。大学が持っている科学的な知見は、私たち酒類メーカーにはなかなかないものなので、一緒に研究することで新たな提案ができると考えています。
社内ワークショップを通じて、新たな価値提案に取り組む
ー 社内においてもこれまで適正飲酒に関する研修を行ってきました。さらに社内ワークショップも始めていますが、どのような取り組みなのでしょうか?
アルコール関連問題の解決をテーマに、全国から公募で集まった社員たちが意見を積極的に出し合い、新たな価値の創出を目指すものです。目的は大きく二つあります。まずは、酒類メーカーとして、適正飲酒の啓発活動に留まらないアプローチが新たにできないか挑戦したかったこと。それから、自分事としてアルコール関連問題と向き合ってもらい、その解決策を一緒に考えたかったことです。
2021年、2022年と2回実施していますが、営業担当から工場、研究所勤務、年齢も20代から50代までと様々な社員が参加しています。それぞれ半年間、アイデア創出にグループで取り組み、いくつかはその後実証実験をして、具現化を目指しています。
ー 実際にそこから生まれた取り組みはあるのでしょうか?
2022年10月から始まった新サービス「飲酒量レコーディング」は、ワークショップで出た提案の中の一つです。飲酒した量や休肝日を記録し、現状の飲酒量を純アルコール量(g)やグラフで可視化します。登録したお酒の種類や飲酒量に合わせてLINEのトーク画面上にお酒の飲み方や商品情報が配信されます。
ー 人によって、提案される内容が変わるのですね?
はい、それこそがポイントです。お酒が好きな人がいつまでも健康な状態でお酒を楽しめるように、その人に合った飲酒習慣を身に着けてもらうためのサービスです。だから、発信する情報もなるべくパーソナライズしたいと考えました。
ー これからも新たな提案が生まれそうですね。
現在、実証実験が進んでいる取り組みもありますし、今後もワークショップは実施予定です。私たちは、お酒を末永く楽しみたいと思っているお客さまに寄り添っていきたいと思っています。そのためには、社内外仲間と手を携え、新たな取り組みを提案していきたいです。
※アサヒグループホールディングスのプレスルーム2022年10月28日の記事を再構成しています。