サステナブルなホテルへ。歯ブラシを“使い捨てない”アイデア
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皆さんの生活と切っても切れない使い捨てプラスチック。実は、日本の廃棄プラスチック総排出量は年間約823万トン※にもなるんです。そのうち約62%が焼却処理した際に発生する排熱を回収しエネルギーとして利用され※、素材へのリサイクルは約25%に留まっています。
今回は、プラスチック素材の循環活用を目指す「plaloopプロジェクト」の第1弾として、ホテルの使い捨て歯ブラシの循環に取り組むアサヒユウアスの古原徹と、共創パートナーのホテル日航つくばの林智一さんにお話を聞きました。
※ 一般社団法人プラスチック循環利用協会資料「廃プラスチックの総排出量・有効利用量・有効利用率の推移」(2022年実績)
INDEX
歯ブラシの再資源化プロジェクト。きっかけは志とニーズの合致。
―では古原さん、最初に「plaloopプロジェクト」について教えてください。
「plaloopプロジェクト」は、使用済みのプラスチック製品の回収からプラスチック素材へのリサイクル、さらにそのプラスチック素材を使った商品開発・製造・販売を一体化することで、プラスチックの資源循環を促進する取り組みです。
―第1弾としてホテルのアメニティの歯ブラシを循環させるということですが、どのような仕組みなのですか?
ホテルで使用済みの歯ブラシを回収した後、歯ブラシの柄の部分をプラスチック素材としてリサイクルし、リサイクルプラスチックの歯ブラシやヘアブラシを製造します。初回製造分の歯ブラシもリサイクルプラスチックを使って製造していますし、歯ブラシの回収や柄のカット作業などの一部は福祉作業所に依頼することで、障がいのある方の多様な就労機会の創出にもつなげています。
―ホテルや福祉作業所などとの連携によって循環が生まれているのですね。今回、第1弾としてなぜ歯ブラシを選んだのですか?
2022年に施行されたプラスチック資源循環法の影響で、ホテルの使い捨て歯ブラシは、もみ殻配合歯ブラシ等に切り替わるなどのエコ素材化は進みました。でも、一度使っただけの製品がリサイクルされずに燃えるゴミとして廃棄されてしまうことが気になっていました。
ホテルにはサステナビリティに対する意識の高い欧米からの観光客も多いですし、サステナビリティの取り組みを強化しているホテルが多いので、ニーズがあるのではないかと考えたんです。日本の技術力や強みを海外にアピールする機会にもなりますしね。
アサヒユウアスにはアサヒグループの容器包装に関する技術・知見、商品やサービスを通じて使い捨て・バージンプラスチックの削減やリサイクルに取り組んできた実績もあるので、一緒に取り組めたらおもしろいなと思って共創パートナーを探していました。
―お互いの思いやニーズが合致したんですね。
そうなんです。志を同じくするパートナーとしてホテル日航つくばの林さんに出会い、一気に実現に向けて進みました。約1年かけて仕組みを組み立て、2024年5月からホテル日航つくばでのテスト展開にこぎ着けました。テスト展開のときの宿泊客アンケートでは約9割がこの取り組みに対して好意的だったんですよ。そして7月8日からホテル日航つくばで本格展開を始めることとなりました。
―テスト展開で賛同が多く集まったのですね。いよいよ本格展開が始まりますが、ここまでたどり着くまでにどんな苦労がありましたか?
苦労と言うか、想定外だったことがありました。リサイクルプラスチックを使用すると、バージンプラスチックを使用した場合とは違って、柄の成形時に気泡が入ってしまうんです。歯ブラシの業界スタンダードからすると見た目の品質としてNGだという声もあったのですが、気泡をなくすことは技術的に難しくて…。もちろん強度などの品質面や衛生面では全く問題がないので、このプロジェクトの趣旨と目的から許容するという判断をして、皆さんに納得してもらったんです。
―そういったことがあったのですね。実物を見ても気が付かなかったです。取り組みは始まったばかりですが、課題や今後さらにやっていきたいことはありますか?
トライアルでは回収率は十分でなかったので、ホテルと協力して上げていきたいですね。あとはこの取り組みを広く知ってもらい、パートナー企業を増やしていきたいです。まだ確定はしていないのですが、興味を持ってくれて商談が進んでるホテルもあるんですよ。
素材としては、ホテルのアメニティではヘアブラシやカミソリの柄の部分もリサイクルを検討しています。アメニティ以外でもプラスチック素材を活用した製品の開発や有効活用できる仕組みを考えていきたいですね。
スタッフ一丸となって回収率アップを目指し歯ブラシの循環を促進。ホテルをさまざまな循環の場に。
―プロジェクトへの参加経緯を教えてください。
プラスチック資源循環法が施行され、ホテルとしてアメニティのあり方もこれまでのままではいけないなと考えていました。当ホテルでは年間約6-7万本の歯ブラシが使用されています。リサイクルプラスチックを一部使用した歯ブラシも導入していたのですが、バージンプラスチック製でないのでリサイクルできないと聞いていましたし、使用後には捨てられてしまって再度リサイクルされないとなると根本的な解決にはつながっていないように感じて、釈然としない思いがあったんです。
このプロジェクトのお話を聞いて、「まさにこういうことがやりたかったんだ!」と思い、一緒に取り組むことを決めました。
―ホテルとしても課題を感じていた部分だったのですね。
そうなんです。実際に宿泊されるお客さまの意識やニーズも変化しているなと感じることも多いんですよ。例えば、バスアメニティを省いた宿泊プランも好評で、エコや持続可能性に意識が高い方が増えているなと。そういったこともこのプロジェクトの後押しになっています。
―お客さまのニーズと言うと、テスト展開時のアンケートではどのようなお声があったのでしょうか?好意的な反応が約9割だったと聞きました。
「とてもいい取り組みですね」「初めて知ったのですが、全国に広げてほしいです」といったお声があって、私たちもうれしくなりました。一方で回収率としては4割弱(回収本数/宿泊人数)でした。アメニティの歯ブラシ自体を使わない方もいるので、使った方に占める回収率はもう少し高いと思っていますが。アンケートの回答者は、こういったことに意識が高く、回収にも協力してくださった方がほとんどなので、アンケート結果として非常に良いのですが、逆に参加いただけなかった方の気持ちははっきりとはわかりません。
本格展開ではこの取り組みをしっかりとお客さまにお伝えし、懸念を払拭していくことで、もっと回収率を上げていきたいですね。
回収するメイド係の作業負担も考えないといけないと思っています。テスト展開では「今までの作業と負担は変わらない」という意見が多く、取り組みに関しても肯定的にとらえているメンバーが多かったです。負担となっている内容も回収オペレーションを変更するなどで解決していければと考えています。
お客さまへのアプローチもスタッフ側のオペレーションもどのような工夫が必要なのか試行錯誤しながら、メンバー一丸となって取り組んでいきます。
―今回の展開がモデルケースになって広がっていきそうですね。最後に今後の目指す姿を教えてください。
プラスチック循環の話だけではないんですが、ホテルをたくさんの持続可能なつながりを生む場にしていきたいです。
コロナ禍で実感したことが、ホテルは「人に来てもらってなんぼ」だということ。宿泊のためだけではなく、地域に人が集まるための場所として、これまでのホテルの価値にとらわれない新しい価値を提供したいです。そのためには仲間を増やしながらつながりを大切にして、自社だけではできないことを広げていきたいと考えています。 規格外野菜を使用した食品ロスへの取り組みや養蜂、サステナブルフェスティバルの開催など。情報発信の場であり、地域と一緒に取り組む場であり、子どもから大人までいろいろな体験ができる場所。ホテルをそんな場所にしていきたいです。
いかがでしたか?さまざまな場所でプラスチック問題への解決に向けた取り組みが進んでいます。日々の生活の中でもまだまだできることがありそうですね!