世界が注目する日本料理の進化を支える「なだ万」の料理会議とは
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いまや海外からも注目される日本料理。なかでも本格的なコース仕立ての「懐石料理」は日本を訪れた際の楽しみのひとつとして外国人旅行客からの人気も高まっています。世界が注目する日本料理の魅力を再発見するために老舗日本料理店「なだ万」の料理会議に密着しました!
INDEX
日本人でも意外に知らない?!日本料理の伝統「懐石料理」とは?
懐石という言葉は、漢字で「ふところの石」と書きます。かつて修行中の僧侶が懐に温石を入れて体を温め空腹をしのいでいたということから、空腹をやわらげる程度の軽い食事という意味があったようです。
「懐石料理」の由来は諸説ありますが、茶の湯の世界で、濃い抹茶を飲む前に、来客をもてなすための料理として千利休が確立したとされています。出される料理は、お茶をより美味しく味わう前に小腹を満たすためのものとして「一汁三菜」が基本で、ごはんとお吸い物、3品のおかず、香の物で構成されたとてもシンプルな献立でした。茶道の流派によって食事中の作法が決められており、作法に従って食べ進めていったようです。
現在のような豪華な料理となったのは、茶道と離れて発展し、酒宴のための料理へと変化したためといわれています。さらに各日本料理店では、品数を増やしたり、順序を変えたり、独自にアレンジして懐石料理を進化させています。
日本料理の魅力を探るため「なだ万」の伝統「料理会議」に密着!
190年以上の歴史をもつ老舗日本料理店「なだ万」。その歴史は、江戸時代の天保元年 1830年に初代・灘屋萬助が料亭「灘萬」の母体というべき料理屋を大阪で創業したことに始まり、天保から令和まで日本国内のみならず、世界各国の方々に日本料理を届けています。190年超の伝統をどのように受け継ぎ、進化させているのでしょうか?今回は、日本料理の魅力を再発見するために、全国の「なだ万」調理長が一堂に集まり開催される「料理会議」に密着しました。
「料理会議」が始まったのは1986年。技術を伝承することに加えて、時代やお客さまの嗜好に合わせて日本料理を進化させていくための料理人たちの研鑽の場として続けられ、現在も3カ月に1度開催されています。
この日は、東京・品川区にある「なだ万 高輪プライム」に総料理長をはじめ、全国の店舗から約30人の調理長が集結。開催毎に発表する担当店が決められており、今回は「新宿なだ万賓館」「日本橋なだ万」「横浜なだ万賓館」の3店舗の調理長が、数カ月かけて考え抜いてきた新作のコース料理を披露しました。
大きなテーブルに、3店舗分のコースが参列ずらりと並んだ様子は圧巻!旬の食材や流行の素材を使い、器の選定や盛り付けにもこだわった料理はとても美しく、目を引き付けられるものばかりでした。
テーブルを取り囲む調理長たちが真剣なまなざしで各料理をチェックしていく中、担当の3店舗の調理長が順番に料理を説明していきます。各調理長の説明の後は質問タイム。次々と手が上がり、「この出汁のレシピは?」「この味噌は何カ月熟成させているのか?」「その食材は初めて知ったがどこから調達してきたのか」など担当店の調理長は質問攻めに。それらに対して、一つひとつ丁寧に応える調理長。全員がメモをとり、それを自分のものにしていこうとまさに切磋琢磨の場・真剣勝負の場となっていました。
最後に総料理長が総評。「もっと細かく包丁を入れないと食べにくい」「その盛り付けでは素材の色を生かしきれていない」などと鋭い意見が出され、会場はさらにピリッとした緊張感に。総料理長としての豊かな経験や知識に加えて、実際にお客さまが召し上がる際のことに配慮したコメントやアドバイスが印象的でした。
実は、「なだ万」では調理長たちにメニューの裁量が任されているため、店舗ごとで献立が異なり、全国一律のメニューではありません。この「料理会議」で発表されたさまざまなアイディアや発想が生かされた料理が店舗ごとにブラッシュアップされ、実際に翌月の店舗のコースメニューとして提供されるのです。
「料理会議」での料理は、旬の素材を使っているのはもちろんのこと、一見伝統的な日本料理に見えても、チーズやトリュフ、ワイン塩、バルサミコ酢などの洋風の食材や調味料を絶妙に合わせていたり、調理長が出張先で見つけたローカルな野菜や、TV番組で知った評判のブランド肉を調達して使用したりと、日頃から素材や料理に対する飽くなき探求心と、柔軟で新たな発想が存分に取り入れられていました。
1品1品が大変手間のかかる丁寧で巧みな調理技術から出来上がっている料理に驚くとともに、「料理会議」が、”「なだ万」らしい”料理が出せる源泉となっていることがわかりました。
“老舗はいつも新しい”をモットーに、伝統を守りながら常に進化
総料理長の上村哲也さんは、約400人の調理スタッフのトップに立ち、ホテルニューオータニ内の本店で腕を振るい、各店舗の調理長を指導しています。「料理会議」を続けている意義や、日本料理への想いを伺いました。
『料理人は互いにプライドがありますし、それぞれの料理に対して意見を言い合うことは本来とても難しい事です。
しかし、現代では、多様化するお客さまの嗜好や食材、すべての変化に広く目を向けて、絶えず進化することが求められます。「料理会議」では、高い技術力を持つ調理長たちが新しいアイディアを披露し合い、調理長同士が刺激を与えあうことで、「なだ万」ブランドを常に進化させていています。まさに社是の通り、”老舗はいつも新しい”を実践する場となっているのです。
調理人の気概が伝わってきますので、私も気が抜けません。会議では厳しい指摘もしますが、すべては、お客さまに「また食べたい!」と思っていただけるような日本料理を提供し続けたいという思いから。私自身、これからも美味を探究し続け、伝統的な日本料理の良さを残しつつも斬新な発想で常に進化し続けたいと考えています』
「料理会議」によって進化を続ける「なだ万」の日本料理。みなさんもお店に足を運んで、日本料理の魅力を再発見してみてはいかがでしょうか?
おうちで「なだ万」の味にチャレンジ!
「なだ万 YouTube公式チャンネル」では、“家庭でアレンジできる簡単レシピ”を紹介しています。10人の調理長が教えるレシピ動画では、テーマに沿って1人3品ずつ、調理のポイントをわかりやすくお伝えしています。
さらに、上級者向けにあえて技法をそのまま紹介している”なだ万伝統料理レシピ”もあります。惜しげもなくレシピを紹介していますので、ぜひチャレンジしてみてください!