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アパレル、通関士、そして社長へ。異色キャリアが挑む物流業界の変革

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アパレル、通関士、そして社長へ。異色キャリアが挑む物流業界の変革

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「スーパードライ」や「三ツ矢サイダー」など、私たちの生活に身近なアサヒグループの商品。それらは日々、全国各地の食卓やお店へと届けられています。この巨大な物流ネットワークの最前線で現場での運送の役割を担っているのが、アサヒグループの輸送会社「エービーカーゴ株式会社」です。アサヒグループの物流を支える重要な存在でありながら、皆さんにはまだ馴染みの薄い名前かもしれません。

そんなエービーカーゴの代表取締役社長に、2026年3月に就任したのが西山知里です。
実は彼女のキャリアは、物流とはまったく無縁のアパレル業界から始まりました。数々の偶然とピンチに直面しても「なんとかなる」という持ち前の楽観主義で道を切りひらいてきた西山。異色の経歴を持つ西山の歩みと、これからの物流業界にかける情熱に迫ります。

プロフィール

エービーカーゴ 代表取締役社長 西山 知里(にしやま ちさと)

ドレスメーカー専門学校卒業後、服飾メーカーで10年間勤務。2006年にアサヒロジの通関業立ち上げメンバーとして入社。2024年には営業企画部長に就任し、組織運営を担う立場として活躍。2026年3月からは、大型輸送部門を担うエービーカーゴ株式会社の代表取締役として、事業の成長と変革を牽引しています。

物流クライシスの時代だからこそ。エービーカーゴが挑む「働き方改革」

現在、日本の物流業界は大きな転換期を迎えています。いわゆる「2024年問題」による労働時間の上限規制、ドライバーの高齢化、EC市場の拡大による需要の急増など、課題は山積しています。特に、業界特有の多重下請け構造のなかで、現場のドライバーの努力が正当に評価されにくいという構造的な問題も長年指摘されてきました。

しかし、エービーカーゴはこの状況を「働き方を正常化するための絶好の機会」と前向きに捉え、さまざまな改革を進めています。例えば、「重大な過失がない限り、事故や破損時の個人弁償は求めない」という方針を徹底し、現場のドライバーを過度なリスクから守るための制度づくりに取り組み始めました。さらに、福利厚生や研修制度の充実を充実させることで、多様な人材が安心して長く働ける環境整備も進めています。

その結果、同社ではさまざまなバックグラウンドを持つ人材が活躍しています。公式Noteでも、育児休暇や有給休暇を柔軟に活用しながら働く若手ドライバーや、未経験から挑戦して大型トラックを乗りこなすまでに成長を遂げた女性ドライバーのエピソードが紹介されており、一人ひとりが主役になれる職場環境が着実に広がっています。

19歳でトラックドライバーの世界に足を踏み入れ、23歳でエービーカーゴに入社。現在は念願だったトレーラーの乗務員として活躍中。結婚し、二児の父となった今も、仕事とプライベートを両立させながら、プロとしての道を歩み続けている。

人生を変えた香港での個人輸入。2ヶ月の猛勉強で「通関士」へ

そんなエービーカーゴを率いる西山ですが、最初のキャリアはアパレル業界でした。「東京に出て働きたい」という思いから20歳の時にラフォーレ原宿(森ビル)へ入社。その後、服飾メーカーに転職しパタンナーや商品の企画・流通を管理するマーチャンダイザーとして約10年間勤務しました。当時は、ヨーロッパで買い付けた生地を中国・深センの工場へ送り、現地で製品化した服を日本へ輸入する業務にも携わっていました。

「当時、輸入通関の遅れによって納期に影響が出ることがたびたびありました。『なぜ予定通りに届かないのだろう』と、上司に怒られることに怯えながら戸惑うばかりで。でも今振り返ると、それが国際物流の難しさと重要性を肌で知った私の原点となる経験でした」

その後、バブル崩壊の影響で所属していたアパレルブランドが消滅。一度仕事を離れた西山に、思わぬ転機が訪れます。

きっかけは母親と訪れた香港旅行でした。現地で購入したアンティーク家具を日本へ送るため、自ら税関へ足を運び個人輸入の通関手続きを経験したのです。その仕組みの面白さに魅せられた彼女は、帰国後の書店で『通関士のすべてがわかる本』という参考書を手に入れます。「再就職のために、試しにやってみよう」そう決意してからは、法律や専門用語をひたすら丸暗記する日々。わずか2ヶ月という短期間の猛勉強で、国家資格である「通関士」の試験に見事合格したのです。

資格取得後は、物流会社で派遣社員としてニッカウヰスキーの輸入業務などを担当。そこで出会った顧客の温かい対応に触れるなかで、人と人とのコミュニケーションを軸とした物流の仕事に面白さを見出していきました。その後、かつての担当者から「アサヒロジの通関事業の立ち上げに携わってみないか」と打診を受け、2006年にアサヒグループへ入社することになりました。

「頼んでよかった」と言われる仕事をしたい。アサヒでの奮闘

アサヒグループへの入社は、西山にとってプレッシャーとの戦いでもありました。「会社の規模がそれまでとはまったく違うので、自分に務まるのか本当に不安でした。でも、信頼して声をかけてもらった以上、言い訳をせずに飛び込んでみようと思ったんです」

通関という仕事は、物流のプロセスの中でも表舞台に立つ仕事ではありません。しかし、一つの判断の遅れが商品の納期、ひいては企業の信用に直結する、非常に責任の重い仕事です。

エナジードリンク「モンスター」が日本に上陸した際、予期せぬトラブルが発生しました。「届くはずの荷物が予定日に来なかったんです。あの時は頭が真っ白になり、本当に血の気が引きました」

しかし、西山の根底には「なんとかなる」という前向きさがあります。トラブルは起きる時は起きる。起きてしまった事実は変えられないのだから、それを真摯に受け止め、いまできる最善の調整を淡々と重ねて解決していくしかない。いつしか、「失敗は間違いではなく、次の成功への学びの途中なのだ」と捉えるようになっていきました。

「現場の仕事は、多くの人の工夫や責任感の上に成り立っています。だからこそ、『西山に頼んでよかった』と現場やお客様から言われる存在でありたかった。チームの中で誰よりもそう言われるように、できることは全部やろうと愚直に仕事に向き合ってきました」

そんな西山ですが、プライベートでは料理や洋裁、編み物など、ものづくりを楽しむ一面を持っています。温度や湿度、熟成の進み具合を観察しながら、からすみや味噌づくりにまで取り組むほどの「手しごと好き」として、社内でも知られています。
一見すると、物流経営とは結び付きにくい趣味にも思えますが、西山は「こうした方がもっと良くなるのではないか」と常に考えながら、地道な観察と改善を積み重ねる姿勢は、趣味の世界でも経営の現場でも変わらないと言います。

手作りのバッグ

未来につながるものを運ぶ。ドライバーが誇れる会社を目指して

アサヒロジで16年間にわたり通関業務を牽引した後、2024年には営業企画部長へ異動。ここでも未経験の分野でしたが、「会社がそう言ってくれるならやってみよう」と果敢に飛び込みました。持ち前の明るさと周囲を巻き込む力で、瞬く間にチームをまとめ上げます。

「人を巻き込むために、当時はあらゆる飲み会に顔を出しましたね(笑)。そうやって関係性を築くことで、自分が困った時に『西山さんのためなら』と助けてくれる仲間が社内外に増えていきました」

そして2026年、突然、エービーカーゴの社長就任を告げられます。
「全くの寝耳に水で、聞いた瞬間は言葉を失って固まりました。まさか自分が輸送会社のトップになるなんて、想像もしていませんでしたから」
しかし、ここでも彼女の「なんとかなる」精神が背中を押します。「せっかくいただいたチャンス。断る理由はない。挑戦しない後悔の方が大きいと思ったんです」

生え抜きの運送人ではなく、アパレルや通関という異色のルートを歩んできた「女性社長」だからこその強みもあります。
「『なぜ?』『どうして?』と、業界の長年の当たり前を疑う視点を持てるのが私の強みです。普段の仕事で女性だからと意識することはありませんが、例えば女性ドライバーが気持ちよく働けるようにきれいな更衣室やトイレを整備するといった気づきは、これまでの運送業界の常識を変えていく一歩になると信じています」

社長就任後、西山が最優先で取り組んでいるのが「安全第一」の徹底と、現場との対話です。 全国に21ある事業所をすべて訪問し、約350名いるドライバー全員の顔と名前を覚えることから始めています。

「物流は、ドライバーがいて初めて成り立ちます。ドライバーがいないと、日本中のどこにも物が届かないんです。だからこそ、エービーカーゴを『ここで働きたい』と社員が誇りに思えるような、やりがいのある会社にしていきたいんです」

そのためには、ドライバーの社会的価値と地位を向上させることが急務だと考えています。
 「適正運賃の推進など、国もルールを変え始めています。だからこそ、自分たちでトラックとドライバーを抱えている会社が、これからの時代は強くなります。アサヒグループの中における、私たちの存在意義はこれからさらに高まっていくと確信しています」

事業所訪問をすると必ず社員と写真撮影

「私たちが運んでいるのは、商品だけではありません。商品には作り手の思いがあり、それを運ぶ社員一人ひとりの成長や誇りも一緒に運んでいます。モノだけでなく、人の成長や挑戦も含めて『未来につながるもの』を運べる存在でありたいです」

アパレルのパタンナーから、国家資格の通関士へ。そして、巨大な物流ネットワークを率いるトップへ。異色のキャリアを重ねてきた西山。彼女の明るく朗らかなリーダーシップと、現場を誰よりもリスペクトする姿勢のもと、エービーカーゴは物流の新しい未来へ向けて、いま力強く走り始めています。

text & photo「ハレの日、アサヒ」編集部

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